ワンルーム投資は保険の代わりになるのか?

最近、投資用ワンルームマンションを売る業者が“あきらめた”ような気がします

 

執拗な営業を? いえいえ、それはあいも変わらず続いています(苦笑)。

 

彼らが“あきらめた”のはワンルームマンション投資を「魅力的な運用商品」と売り込むこと。見方を変えればこれは、ワンルームマンション投資が純粋な投資手段として他の金融商品に勝てなくなったことを意味しています。

 

ご存知の通り、ここ数年高騰の一途をたどるマンションの建設費。不動産投資熱が高まったことと相まって、新築を中心に投資用物件の利回りは下がり続けています

 

レバレッジ効果を持ち出して「頭金ゼロであなたにも家賃収入が!」と謳っていたのも今は昔。現在ではローンを返した後の毎月の収支がプラスになるほうが珍しく、大家に持ち出しを強いるケースがほとんどです。

 

この状態では消費者から「ワンルーム投資って大丈夫?」と思われても仕方がありません。ワンルームマンション販売業者としては、自分の商品を「利回りの良い運用商品」として売ることをあきらめ、次の売り方を考えなければいけない状況に陥っています。

 

そんな中で彼らが打ち出してきたのが、「ワンルームマンションは生命保険の代わりになります」というセールストークです。

 

この言葉自体は昔からありますが、最近ではさらに「ワンルームマンション投資は生命保険より“安い”です!」という方向にシフトしてきています。

 

そんな彼らの言葉を聞くたびに、ファイナンシャルプランナー(FP)として私は大きな違和感を覚えます。自信満々にそう言い切る彼らが、どう見ても生命保険に詳しい人間には思えないからです。

 

生命保険のことを知らない人間が、何を根拠に「ワンルームマンション投資は生命保険より安い」と主張するのでしょうか。

 

そこで今回は、自ら賃貸経営を行う「“お金の相談”の専門家」FPが、ワンルームマンション投資が本当に生命保険より安いのかを、具体的な数字を使って検証します。


どの生命保険と比べればいいの?

一口に「生命保険」と言っても世の中には様々な種類の保険商品があります。両者を比較するのであれば、まずは「どの生命保険を比べるのか」を決めなくてはなりません。

 

そもそも、なぜワンルームマンション投資が生命保険の代わりになるのでしょうか。

 

それは、アパートローンを借りるときに強制加入となる団体信用生命保険(団信)によって、契約者に万が一のことがあった場合には自動的にローンが消滅する仕組みになっているからです。

 

ローンがなくなってしまえばあとは家賃が入ってくるだけ。その家賃が「遺族への保険金の代わり」になるという理屈です。

 

このお金の入り方を生命保険に置き換えると、「収入保障保険」と呼ばれるものに当てはまります。

 

収入保障保険とは「万が一があった時に“毎月決まった金額”が“決められた期間”ずっと遺族に支払われる」という形の保険で、例えば「もしもの時は子供が大学を卒業するまで毎月10万円がもらえるようにする」といった使い方をします。


生命保険料のシミュレーション

この収入保障保険の毎月の保険料はネットで簡単にシミュレーションできます。

 

試しにメットライフ生命のサイトで計算してみましょう。入力条件は以下の通りです。

  • 加入者:35歳男性
  • 加入期間:30年間(65歳まで)
  • 保険金額:毎月10万円(最大保険金額3,600万円)
  • 健康状態:非喫煙者

以上の条件でシミュレーションすると、収入保障保険の毎月の保険料は3,430円、年間は41,160 円となり、30年間での総合計は約「123万円」となります。

 

この金額が高いと思うか安いと感じるかは人それぞれだと思いますが、昔からある大手保険会社に比べたら「意外と安い」と思う人も多いかもしれません。

 

世の中には必要のない保険はたくさんありますが(笑)、そんな中でも収入保障保険は“比較的費用対効果の高い商品”と言えるでしょう。


ワンルーム投資のシミュレーション

それでは、肝心のワンルームマンションです。標準的なローン期間の30年間で、その間にかかるコストを考えてみましょう。

 

先ほどの収入保障保険と比較するため、毎月10万円のキャッシュフローを生み出してくれる物件を想定します。表面利回りを5%と仮定すると、管理修繕費も考えて購入価格が2,800万円程度の物件ということになるでしょう。

 

フルローンで金利を2%とすれば、毎月の持ち出しは5,000円程度です。これが年額で6万円、これに固定資産税の7万円を加えて「毎年13万円」のコストと設定します。30 年で「390万円」です。

 

ここに数年に一度発生するコストを加算します。

 

エアコンと給湯器の交換を10年に一回20万円(30年で60万円)、壁紙の張替えを含むリフォーム代を6年に一度15万(30年で75万円)とすると、30年の総コストは「525万円」という計算になります。

 

なお、ワンルームマンション投資の初期段階では減価償却による節税効果が見込まれますが、この効果には賞味期限があります。30年の間には節税効果どころか重い税負担に変わる可能性がありますので、今回の試算からは除外します。


投資には「不確定要素」がつきもの

「万が一の時」のためにかかるコスト。生命保険は123万円、ワンルームマンションは525万円、両者の開きは約400万円にも上ります。

 

もちろん、この二つの数字を単純に比べることはできません。ワンルームマンションの方には「ローンを払い終えたマンション」という資産が残ることになるからです。

 

言い方を変えればこれは、残ったマンションに400万円以上の価値があれば、ワンルームマンション投資の方が生命保険より“安い”ということを意味しています。

 

未来の売却価格は誰にもわかりませんが、いくら築30年のマンションとはいえ、さすがに元値2800万円の物件が400万円以下まで下がるというのは考えにくいかもしれません。それであれば不動産業者の主張も正しいように思えます。

 

ただ、ちょっと待ってください。長期間に及ぶ賃貸経営には上記のシミュレーション以外にも様々な“不確定要素”が存在します。

 

ローンを返済していく30年間で…、
「家賃がどのくらい下がるのか?」
「どのくらいの空室が発生するのか?」
「金利がどのくらい変化するのか?」
「どのくらいの追加修繕費が発生するのか?」

 

こうした要素をどう考えるかによってシミュレーションの結果は大きく変わってくるでしょう。

 

例えば家賃を5年ごとに5%下落する設定にすると、家賃収入の総額は上記のシミュレーションより30年間で420万円程度下がることになります。この場合、「万が一のためのコスト」は945万円となり、生命保険との差は800万円を超えてしまいます。

 

もちろん30年間一度も空室が発生しないことなどあり得ません。また、現在のような「超低金利時代」がこれからもずっと続くとは考えにくいでしょう。

 

こうした不確定要素を全て拾っていけば、生命保険とワンルームマンションとのコスト差は1000万円になっても1500万円になってもおかしくないはずです。


「確実性」では生命保険に軍配が上がる

端的に言えば、「30年後にもその物件にしっかりとした資産価値が残っている」と考えるのであれば、「生命保険の代わり」としてワンルームマンション投資を選択肢に加える考え方もありだと思います。

 

しかしながら、築年数の経ったマンションを資産として残すには、そこまでの継続的な努力が必要であることを忘れてはいけません。どんなマンションでも勝手に資産となるわけではないのです。

 

その意味では、投資用ワンルームマンションが生命保険の代わりになり得るのは、あくまでも「うまく行った場合は」という条件付きであることを認識するべきでしょう。

 

当然「確実性」という点では、生命保険に軍配が上がります。一度契約をしてしまえば万が一の場合、必ず決めておいた金額を受け取れるからです。

 

改めて言うまでもなく、生命保険は「万が一の時」のための保障。起きるかどうかわからないことに対する保障に「不確実性」というさらなるブレ幅を持ち込むかどうかは判断が分かれるところだと思います。

 

単純に保障が欲しいだけであれば、「確実性のある生命保険を選択する」という考え方も当然成り立つでしょう。


二兎追うものは一兎も得ず?

本当の意味で怖いのは、「生命保険の代わりになります!」と言っている営業マンがそうしたブレ幅を認識していないことです。

 

繰り返しになりますが、彼らは生命保険のことは何も知らない素人です(まぁ、不動産投資のこともどのくらい知っているか怪しいものですが-苦笑)。どんな生命保険と比べているかもわからずに、ただ会社から教えられたことを口にしているだけの可能性が極めて高いでしょう。

 

たしかにマンションは目に見える分、紙の上にしか存在しない生命保険より説得力を持っているのかもしれません。ただし、不動産投資はあくまでも運用の一種。そこには必ず「リスク」という名のブレ幅が存在します

 

素直に考えれば、純粋に保障が欲しいだけの人が「保険料がもったいないから」といってワンルーム投資に手を出すのはオススメできません。「二兎追うものは一兎も得ず」という結果になりかねないからです。

 

不動産投資に手を出すのであれば、それなりの準備が必要となります。物件を売りたい業者側の理屈ではなく、自分にとって「どの選択肢が最適なのか」を冷静に判断することが重要です。


(2018/09/12 文責:佐野純一)

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