難問! 「就業不能リスク」を考察する。

不動産投資と生命保険の両方に詳しい“現役大家FP”が、生命保険の必要性を考察するコラムの後編です。

 

前回の「FPが考える生命保険の必要性(前編) 〜不動産投資で保険は不要ってホント? 〜」では、

ケース@ 怪我や病気で入院した場合
ケースA 働き手が亡くなった場合

について、その必要性を考えてみました。

 

後編の今回は、残る難問である

ケースB けがや病気で働けなくなった場合

について生命保険と不動産投資の両面から考えていきます。

 

近年、続々と新しい商品が開発され注目を浴びる「就業不能保険」の必要性とは?

 

そして就業不能リスクは不動産投資を行うことで回避できるのでしょうか?


ケースB けがや病気で働けなくなった場合

医療保険は病気や怪我をした時の治療費や入院費、つまり「出て行くお金」に備える保険ですが、大きな怪我や病気をするとこれまで通りの収入を得られないことがあります

 

そうなるとライフプラン上で算入していた「予定していた収入」を得ることができず、その金額を前提に計算していた住宅ローンや子供の教育資金などの「予定していた支出」に対応できなくなってしまいます。その結果、ライフプランに大きな変更を加えなければならなくなるかもしれません。

 

このことを保険の世界では「就業不能リスク」と呼びますが、このリスクに対する生命保険は必要でしょうか。


就業不能リスクには2種類ある


この「就業不能リスク」は大きく二つに分けられます。

 

一つが治療期間を終えて以前の仕事に復帰するケース。もう一つが治療しても元に戻らず収入が大幅に落ちてしまう、或いは収入が途絶えてしまうケースです。

 

前者の場合、生命保険では「三大疾病(がん・脳卒中・心筋梗塞)保険で大きな一時金を準備することで治療期間に備える」という対策ができます。

 

この保険は、働けなくなった時の収入減を補うのが主な目的です。例えば、自分の年収分の一時金を用意しておけば、働けなくなった場合に受給できる傷病手当金(給与所得者のみ)と併せて、じっくりと治療に専念するだけの資金を確保することができます。

 

この時に貯蓄型の生命保険に加入しておけば、結果的に三大疾病を患わなかったとしても、あまりコストを掛けずにこの保障を手に入れる可能性もありますので、これは一つの有効な形だと言えるでしょう。

 

ただし、この方法では怪我での就業不能に備えることはできません。更に言えば、従来の仕事に復帰することを前提で考えられているプランなので、収入が落ちたり途絶えてしまうような後者のケースでは対応に限界があります

復帰できない場合はどうする?

 

実は、長期の就業不能に対しては「解決策」と言えるような有効な商品が見当たらないのが生命保険の現状です。

 

近年、就業不能保険と銘打った商品が各社から販売されていますが、その内容はまちまちです。特にどのような状態を「就業不能」と定義するかは各社で判断が分かれるところです。

 

例えば、ある保険会社の商品は「就業不能」を「“入院”あるいは“医師の指示での自宅療養”」と定めています。これはつまり「どんな仕事にも従事できない状態」でなければ保険金が給付されないことを意味しており、病気や怪我による収入減に対応できるものではありません。

 

各社の就業不能保険のパンフレットを見ると少ない保険料で大きな保障を得られるような錯覚を覚えるかもしれませんが、どんな形であれ、生命保険とは統計を基に設計されているもの。保険料が安い商品であればそれだけ保険金の対象となる事案数が少ないということですから、保険会社に「就業不能」と認められるのはそれなりにハードルが高いものと考えるべきでしょう。

就業不能リスクに団信は役に立たない


さて、それではこうした「就業不能リスク」に対して不動産投資は役に立つのでしょうか。

 

答えは「Yes」でもあり「No」でもあります

 

まず、死亡保障の時に効果を発揮した団信はこの場合役に立ちません。就業不能になったからといってアパートローンが完済となるわけではないからです。もし家賃以外の収入でローンを返済していた場合には、働けなくなった上にアパートローンの負担がのしかかることになります

 

「就業不能リスク」を不動産投資でカバーするためには、家賃収入でアパートローンを返すだけでなく、生活費もそこからまかなえなくてはなりません。

 

家賃収入のほとんどをアパートローン返済に充て、長い時間をかけて不動産という資産を形成するやり方(資産形成コース)ではその余裕はありません。無理に家賃収入を生活費に充てることによって、将来的にその物件の収支が回らなくなる可能性が高まるでしょう。

 

しかし、充分な自己資産を投入した上で賃貸経営を行う方法(資産運用コース)であれば話は変わってきます。もしアパートローン返済をしても生活費を捻出できるほどのキャッシュフローがあれば、就業不能リスクを恐れることはありません

 

つまり、一口に不動産投資と言っても「資産形成コース」では就業不能リスクは防げませんが、「資産運用コース」であればそれをカバーできる可能性が見えてきます。

 

ですから、答えは「Yes」でもあり「No」でもあるのです。

決意を持って資産運用コースへ移行しよう!


「自分には資産がないから資産運用コースは無理だ」と言ってあきらめる必要はありません。「資産形成コース」から始めても、努力することで「資産運用コース」に移行することはできるはずです。

 

大事なのは、強い決意を持って資産運用コースに移ること。これは決して簡単な話ではありません。少なくとも毎月生まれるわずかばかりの家賃収入を無駄に使っているようでは、資産運用コースに移行することなど夢のまた夢でしょう。

 

ただ、考えてみてください。

 

きちんとした家賃収入があれば、例え働き手に万が一のことがあったとしても遺された家族が困ることはありません。大病や怪我でしばらく働けなくなったとしても生活費が底をつくこともありません。

 

そして、生命保険では保障が難しい就業不能状態が続くようなケースでも、家賃という収入は途絶えることなく入ってくるのです。

 

その意味では、不動産投資の「資産運用コース」こそ最強の生命保険と言っても良いかもしれません。賃貸経営に真剣に向き合う人だけがその領域に到達することができるのです。

 

結論

生命保険では就業不能リスクに対し限定的にしか備えられない。
不動産投資で「資産運用コース」まで到達したら、生命保険が必要なくなる可能性もある。

生命保険も不動産投資も「目的」が大事

「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)としてご相談に応じる時、どんな内容であれ「なぜそうしようと思ったのか」というお話を時間をかけて伺うことがあります。具体的な方法論に入る前にその方の目的をきちんと聞いておかないと、話が枝葉末節な部分に入ってしまい本筋を見失ってしまう恐れがあるからです。

 

この点については、生命保険の加入を検討する場合でも、あるいは思い切って不動産投資の世界に身を投じる場合でも同じことが言えるでしょう。

 

生命保険への加入や不動産投資を行うこと自体が「目的」になってはいけません。それはあくまでも目的実現のための「手段」に過ぎないのです。

 

逆に言えば、目的さえはっきりしていれば、間違って無駄な保険に加入することもありませんし、うっかり不動産業者に騙されて粗悪な収益物件を掴まされることもないはずです。

 

もしあなたが細かい方法論に迷い込んでしまい自分が何をすべきか分からなくなってしまったら、「自分はなぜそうしようと思ったのか」という原点に立ち返って目的を確認することが大切です。


(2022/12/28改訂 文責:佐野純一)

よく読まれている人気ページ