不動産投資は保険の代わりになるってホント?

「生命保険の必要性を考えたら、不動産投資にたどり着いた」という人がいます。

 

あるいは、「生命保険に入らなくてもいい方法を探していたら、不動産投資に出会った」という声も耳にします。

 

確かに、「不動産投資は生命保険の代わりになります!」というのは投資用マンション営業の常套句。私のところにご相談にいらした方の中でも、そう信じて疑っていない方もいらっしゃいました。

 

しかし、ここである疑問が浮かびます。

 

生命保険の代わりになります」と言っている収益物件の営業マンは、果たしてどのくらい生命保険に詳しいのでしょうか?

 

もし生命保険のことをよく知らないのであれば、彼らの「生命保険はいらない」という言葉にどれほどの信憑性があるのでしょう。

 

今回のコラムでは、自ら賃貸経営を行う現役大家であり、生命保険についても詳しいファイナンシャルプランナー(FP)の立場から、「不動産投資をすれば本当に保険に加入しなくてよいのか?」、さらには「そもそも生命保険は本当に加入しなければいけないのか?」についてお話ししたいと思います。


日本人は生命保険が大好き!

FPの仕事をしていると非常に多くの生命保険のご相談を受けますが、その際に私が大事にしていることが一つあります。

 

それはその人が「生命保険に入る目的」です。

 

個別の保険商品を比較検討することも必要ですが、その前にまず保険に入る目的をしっかり見極めなくてはいけません。もし入る目的がなければ、それがどんな良い商品だったとしても、その人にとっては必要性のない「無駄な保険」となってしまうからです。

 

「不動産投資が生命保険の代わりになるかどうか」の議論の前に、そもそも「その保険に入る必要があるかどうか」を検討することが大切となります。

 

実は、日本人は「保険が好きな民族」と言われています。

 

生命保険文化センターの「生活保障に関する調査(令和元年度)」によると、日本人の生命保険加入率は男女の平均で82%、実に5人中4人以上がなんらかの生命保険に入っていることになります。世界的に見てもこれほど保険の加入率が高い国は稀です。

 

しかしその一方で、自ら進んで保険に入りたいという人にはなかなかお目にかかりません。「入りたくないけれど仕方なく入っている」というのが、皆さんの偽らざる気持ちではないでしょうか。


その保険、入る必要ありますか?

なぜ生命保険に入りたくないのか?

 

やはり一番大きな理由は、「保険にかかるコスト」だと思います。

 

生命保険の役割は「万が一の事態に備える」こと。

 

ただ、“万が一”はあくまでも“万が一”。統計的にみても、それが現実となる可能性は決して高いとは言えません。

 

“万が一”が起こらなければ、結局保険料は無駄になってしまいます。病気や怪我もなく無事に過ごすことができたわけですから、それ自体は喜ばしいことに間違いありません。しかし、そうは思っても「保険料を損した」と感じてしまうのは人の性なのかもしれません。

 

そうした費用対効果の面も含めて、「生命保険は本当に必要なのか」、そして「不動産投資は生命保険の代わりになるのか」。次の3つのシチュエーションで考えてみましょう。

  1. 怪我や病気で入院した場合
  2. 働き手が亡くなった場合
  3. けがや病気で働けなくなった場合

ケース@ 怪我や病気で入院した場合

初めて生命保険のご相談を受ける時、「とりあえず医療保険には入っておこうと思って…」という方に出会うことがあります。

 

これまであまり保険について考えたことがなかった人からそうしたセリフが飛び出してくるわけですが、そのくらい日本では認知度が高く、また加入率も高いのが、入院や手術に備える「医療保険」です。

 

さあ、では果たしてこの医療保険は本当に必要でしょうか。一緒に考えてみましょう。

 

社会保障制度を活用しよう


その答えは、「入院したらどのぐらいお金がかかるのか」を考えれば自ずと出てくるはずです。

 

実際の治療費を計算するのであれば公的な社会保障制度抜きには考えられませんが、実は日本は世界中を見渡しても社会保障の充実している国です。社会保障制度の一つである健康保険(自営業の方は国民健康保険)により、医療費の自己負担が3割に抑えられていることはよく知られている通りです。

 

「3割でも治療が長引けば結構な負担になるよ」と思われた方、ごもっとも。そんな時のために健康保険にはさらに「高額療養費制度」というシステムが用意されています。

 

これはある種のリミッター制度で、一般的な所得の方であれば毎月9万円程度を自己負担限度額とし、超過してしまった分は健康保険が負担してくれるというものです。

 

対象があくまで健康保険の範囲内に限定されている点には注意が必要ですが(先進医療や差額ベッド代等は対象外)、もし入院した場合でも月々の負担が9万円程度で済むのであれば、保険ではなく貯蓄でその費用をまかなうという選択は十分に可能ではないでしょうか。


入院日数は短くなってきている


加えて、入院日数が年々短くなってきているというデータもあります。

 

厚生労働省の「患者調査(平成29年)」によると、2017年の平均入院日数は29.3日。同調査では2014年が31.9日、2011年が32.8日となっていますから、年々入院日数が短くなっているのが一目瞭然です。

 

これは「医療技術の発達」というポジティブな理由もありますが、より切実な理由として「社会保障費用への圧迫」が挙げられます。

 

既に述べた通り、入院費の7割は健康保険の負担です。入院が続く限り国はこの7割を負担し続けなくてはなりません。決して財政が豊かとはいえない今の日本。国としてはなんとか入院日数を短くしようと躍起になっているのが現状であり、この流れは加速こそすれ止まることはないでしょう。

 

その意味では、入院日数で「一日いくら」という医療保険は既に時代遅れになっていると言ってもいいはずです。毎月支払う保険料の元をとるためには何日間入院しなければならないかを考えると、医療保険の必要性には疑問を感じずにはいられません。

 

なお、当然のことながら不動産投資には入院や通院に対する保障機能はなく、収益物件を購入して医療保険の代わりとするのは現実的に無理があります

 

結論

医療保険は貯蓄で備えることが可能。保険の必要性は低い。
不動産投資は医療保険の代わりにはならない。

ケースA 働き手が亡くなった場合

医療保険に続いて「生命保険」と聞くとイメージしやすいのが、働き手がなくなった時の「死亡保障」でしょう。

 

確かに一家を支える働き手に万が一のことがあったら、家計へのダメージは計り知れません。そのご家庭のライフプランも大きく崩れてしまう可能性があり、共働きが多い現代ではご夫婦それぞれに死亡保障をつけているケースも見受けられます。

 

医療保険と違い、貯蓄でカバーするというのもその金額の大きさを考えるとあまり現実的ではありません。“適切な金額”の死亡保障はある程度必要でしょう

 

「必要保障額」をきちんと計算しよう


ただし、この“適切な金額”を決めるのは意外と難しいものです。

 

実際に相談に来た方にどうやって保険金額を決めたのか尋ねてみても、保険屋さんに勧められるままだったり、右に習えだったりするケースがほとんどです。

 

死亡保障によって補填されるべき“適切な金額”のことを「必要保障額」と言いますが、実はこの必要保障額は各家庭によって異なるものです。

 

必要保障額は、原則として「これから必要になるお金−現在の貯蓄額ーこれから入ってくるお金」で求められます。

 

「これから必要になるお金」は家族構成は子供の年齢などによって変わってきますし、もちろん「現在の貯蓄額」も家庭ごとに違います。万が一の時に「これから入ってくるお金」の代表格である遺族年金は、子供の有無や人数によって受給金額に差が出ます。

 

また、その人の住宅が賃貸なのか、購入して住宅ローンを組んでいるのかによっても必要保障額は変わってきます。住宅ローンには団体信用生命保険(いわゆる「団信」)の加入が原則義務づけられていますので、住宅ローンを組んでいる人であれば住宅費の大部分を「これから必要になるお金」に算入する必要がないからです。


不動産投資には団信という保険が含まれる


「不動産投資が生命保険の代わりになる」という話は、この団信の存在が元になっています

 

住宅ローンで必須の団信は、不動産投資でのローン(通常「アパートローン」と呼ばれます)でも加入が一般的です。収益物件の所有者に万が一があった場合は団信がアパートローンを完済してくれるため、遺族には家賃収入がそのまま入ってくるという仕組みです。

 

個人的には、家賃収入というのは「所有者に万が一があったとしても変わらず入ってくるもの」だと思いますので、金融機関が団信加入を義務付けること自体に違和感を覚えます。

 

理屈としては、金融機関は所有者が他の収入(給与等)からアパートローンを返済していくことを前提としているわけであり、裏を返せばこれは「アパートローンが組めたからと言って、金融機関がその収益物件の事業性を評価しているわけではない」ということの証明でもあるのでしょう。

 

ともあれ、アパートローンに団信がついているという点において、収益物件を持つことが死亡保障の代わりになると考えるのは間違いではありません。

 

ただし、団信で保障されるのはあくまでアパートローンの部分だけ。「その後家賃が継続的に入ってくるのか」というのは全く別の問題ですから、「保障の確実性」という点では生命保険に軍配があがります

 

不動産投資を死亡保障保険の代わりにするのであれば、収益物件の事業性を充分に考慮して、その人の必要保障額をきちんとカバーできているのかどうかをしっかり検討する必要がありそうです。

 

結論

死亡保障は必要保障額の見極めが大事。
不動産投資で必要保障額がカバーできるか確認しよう。
保障の確実性においては生命保険に軍配が上がる。

(2022/12/14改訂 文責:佐野純一)

よく読まれている人気ページ