「資産運用に興味はありますが、いつ始めればいいんですか?」
ファイナンシャルプランナー(FP)としてお金のご相談を受けていると、特に若い方からこんな質問を受けることがあります。
たくさんの人が関心を持つ「資産運用」。ただ、資産運用は「敷居が高い」とか「自分には無理だ」という思い込み(そう、これは思い込みです)から、なかなか実際に始めることができない人が多いのも事実です。
こんな質問を受けた時、私は次のようにお答えすることにしています。
「原則として、資産運用を始めるのは早ければ早いほどがいいですよ」
その理由は簡単です。全ての人が等しく持っている“時間”を味方につけることで、資産運用の成功率がぐっと上がるからです。
その一方で、資産運用を始めるにあたって「遅すぎる」ということもありません。60歳からでもできる資産運用があるはずです。
しかし、気を付けていただきたい点ですが、20代の方と60代の方では同じ資産運用の方法で良いはずがありません。先ほど述べた“時間”という要素が両者で大きく異なるわけですから、これはある意味当然のことでしょう。
そこで今回のコラムでは、「“お金の相談”の専門家」であるFPが年代別に「その人に適した資産運用」を解説します。資産運用は自分が人生のどのステージにいるかによって柔軟にスタンスを変化させていくことが重要です。
最初に「資産運用」という言葉の意味をしっかり理解しましょう。
「資産運用」と似て非なる言葉に「資産形成」があります。あなたはこの二つの言葉の違いがお分かりになるでしょうか?
簡単に言えば、「資産運用」とは“元々ある資産をもっと大きくすること”を意味します。「お金に働いてもらう」という言い方をしたりしますが、「お金がお金を生み出す」と考えれば良いでしょう。
ということは、これは元々ある程度資産を持っている人向けの言葉で、このことが冒頭に触れた「資産運用は自分に無理」という思い込みにつながってくるわけです。
一方の「資産形成」は“ゼロからスタートしてコツコツと貯めていく”ようなイメージです。
「貯める」というと貯金だけを思い浮かべる方も多いかも知れませんが、なにも貯金だけが資産を形成する手段ではありません。むしろ、その他の金融商品を活用することでより効率的に「貯める」ことが可能となります。
広い意味では「資産運用」とは「資産形成」を含むものであり、一般的に「資産運用」と言った時には両者の明確な区別はされない場合がほとんどです。
“ゼロからスタートしてコツコツと貯めていく”資産形成は、今現在資産のない人でも始めることができます。そして「資産形成」が「資産運用」の一部であるならば、資産運用が「敷居が高い」わけでもなければ「自分には無理」でもないことは誰の目にも明らかなはずです。
さて、「資産運用」と「資産形成」の意味を確認したところで年代別の方法を見ていきましょう。まずは20代です。
誰もが社会人としての一歩を踏み出す20代。働き始めたばかりならば、この時点で「運用」するほど資産を持っている人は稀でしょう。自ずとこの時期は「資産形成」を目指していくことになります。
まだ収入も少ない段階ですから、毎月運用に回せるお金もそう多くはないかもしれません。少額でもいいのでコツコツと貯蓄を続けることがなによりも大切です。
“少額でコツコツ”という点では「積立」という形が相性が良いでしょう。NISA枠を活用した投資信託の積立でもいいですし、貯蓄型保険や個人年金でも構いません。最近使い勝手が上がってきたiDeCoで節税効果をうまく活用する選択肢もあります。
これから先の時間を有効に使える20代であれば、複利効果も積極的に狙っていきたいところです。利息が利息を呼ぶ複利効果は長い時間をかければかけるほどその効果を発揮するからです。
一方で気をつけたいのが「流動性」の確保です。あまり“お得”にこだわって生命保険や年金の積立額を増やしてしまうと、いざという時に手持ち金がないという事態が想定されるからです。
ライフプランという長い枠組みで考えた場合、これからのキャリアや家族構成など、まだまだ不確定要素が多い年代ですから、過度に流動性を損なうような資産運用はオススメできません。
その意味では、流動性を確保できる貯金も立派な「資産形成」の選択肢となるはずです。
自分のことだけにお金を使ってきた20代と違い、結婚して家庭を持つ人も多い30代は何かとお金がかかる時期です。「結婚費用や出産費用で、これまで貯めてきたお金が一回リセットされてしまった…」などというお話もよく耳にします。
同時に「家計としてお金が溜まりにくい」というのもこの時期の特徴です。
例えば、これまで夫婦二人でフルタイムで働いていた家庭であれば、それなりの貯蓄も可能だったでしょう。しかし、出産に伴い奥様が産休育休をとると状況は変わってきます。
単純に家族が増える分支出も増えますが、働き手が減った分は収入が減ることが予想されます。家計のコントロールが難しくなる、あるいはこれまで隠れていた経済的な問題が表面化してくるのもこの時期です。
そうなると気持ちばかり焦ってしまいがちですが、何も無理をする必要はありません。
住宅資金や教育資金が具体的に数字として見えてくるタイミングですから、ライフプランの精度を上げるチャンスでもあります。あせらずにこれから先「何にいくら使うのか」をしっかり見極めた上で「資産形成」を続けていくことが大切です。
また、広い意味では、自宅を購入することも「不動産」という資産を形成していくことと言えるでしょう。住宅を買うことが全ての人にとっての正解とは限りませんが、これもこの年代の資産運用の一つの形です。
さあ、子供も大きくなってくる40代。「住宅資金」と「教育資金」で手一杯になりがちですが、そろそろ「老後資金」の影もちらついてくる時期です。
継続的にお金が出ていくこの時期はこれまで続けてきた資産形成をベースに、まずは家計のキャッシュフローが回ることを最優先した方が良いでしょう。遠い未来のことばかり気にして、目の前のやりくりがうまくいかないようでは本末転倒だからです。
逆に言えば、ここまでの資産形成で過度に流動性を損なう選択をしていた場合、苦しくなってくるのもこの時期です。資産形成の方法を見直す必要があるタイミングと言えるかもしれません。
一方で、若い頃からの資産形成が実を結び、ある程度まとまった資産を持つことができた人もいるはずです。その人はいよいよ「資産形成」から卒業して「資産運用」へと踏み出すべきでしょう。
「資産運用」となれば、選択するべき金融商品も「資産形成」とは変わってきます。
リスク分散の点から投資信託に頼らざるを得なかったものが、ある程度の資産があれば株式で自分なりのポートフォリオを作ることも可能です。不動産投資であれば、貯まった資金を元手に区分所有ではなく一棟アパートという選択肢も視野に入ってくるかもしれません。
逆に気をつけなければならないのが、あなたに許された“時間”が徐々に少なくなっている点です。
資産形成から資産運用に切り替えるのであれば、自分が到達するべき「資産運用の目標」をきちんと設定し、しっかりとそこにたどり着ける方法を選択する必要があります。「どのくらい時間をかけられるか」も資産運用の成否を大きく左右する要素だということを忘れてはいけません。
さあ、そろそろゴールが近づいてきました。
このゴールとはもちろん「人生のゴール」を指しているわけではありません(笑)。「収入を得られる期間が残り少ない」という意味のゴールです。
50代の資産運用では基本的には40代の方針を継続していくことになりますが、「ゴールが見えてきた」という意味では運用方針に変更を加えても良いでしょう。
例えば、これまでリターンを狙ってリスクの高い商品を保有していたとしても、徐々にその割合を減らしたり安定性の高いものにシフトしていくのも一案です。この時期に大きな損失を出してしまうと、リカバリーするだけの時間が残されていない可能性があるからです。
また、このタイミングで資産形成から資産運用に切り替えるのであれば、長く流動性を損なうものは避けた方が無難です。
極端な例をあげれば、不動産投資においてここから30年ローンを組んで収益物件を購入したとしても、残りの人生を考えた時にその運用の成果を十分に享受することができないかもしれません。
ほとんどの人が老後にはいってくる60代。ここまできたら資産運用に無理は絶対に禁物です。「セーフティファースト」でいきましょう。
発想の転換も必要です。前述のように、「資産運用」とは“元々ある資産をもっと大きくすること”ですが、仕事をリタイアしている方も多いこの年代で、これまでの「増やす」という考え方に固執してはいけません。
老後資金として資産が減っていくことは現代社会では自然なことですから、むしろ「いかに資産の減るスピードを抑えるか」に主眼を置くべきでしょう。資産が減ることばかりに気をとられて、老後生活が味気ないものになってしまうのは避けたいところです。
資産運用によって「資産を増やす」のではなく「減らないようにする」。このように発想に切り替えられば、自ずとセーフティファーストの選択肢が見えてくるはずです。
くれぐれもうまい口車に乗って「退職金で一発当ててやろう!」などとは考えないでください(笑)。
いかがだったでしょうか。「“お金の相談”の専門家」の視点から、年代別の資産運用に対するスタンスを考えてみました。
当たり前のことですが、その年齢によって資産運用の“考え方”も“方法論”も変わってきます。さらに言えば、同じ年代でもその人の状況によって選択肢は当然変わってくるはずです。
世の中に資産運用の指南書は星の数ほどあり、どの本も声高に「自分のやり方が一番!」と謳っています。
しかし、この世の同じ人間が二人いないのと同じように、ライフプランも人それぞれ。同じものは二つ存在しません。そう考えれば他人のマネをしてるだけでは資産運用がうまくいかないことは想像に難くありません。
昔から「資産運用は余剰資金で」と言われます。
その点においても、ライフプランを作って自分の余剰資金を確認し、さらには残された“時間”と相談しながら自分にあった運用方法を探すことはとても重要です。
繰り返しになりますが、資産運用を始めるにあたって“早すぎる”ことも“遅すぎる”こともありません。「資産運用は自分には関係ない」と決めつけず、あなたも自分なりの投資スタイルを探してみてください。