「本当に“相談すべき”ファイナンシャルプランナー」を考える

あなたが“お金の相談”をしたいと思った時、その相手としてどんな「ファイナンシャルプランナー(FP)」を選ぶでしょうか

 

正直に言って、現在の日本において「FP」という職業自体、とても認知度が高いとは言えません。悲しいですが、これは現実です。

 

最近でこそ少し改善されてきましたが、私がこの仕事を始めた頃は「FP」と名乗ると相手の頭の中に「???」が浮かぶのが手に取るように分かることもありました。

 

ひどい時になるとなにやら“胡散臭い商売”と思われることもあり、話を聞いてもらうだけでも苦労したものです。

 

現在では、ようやく「“お金の相談”をする人」という認識が少しずつ広まってきましたが、元々お金の話をすること自体が一種のタブーとされてきた日本文化の中ではFPはまだまだマイナーな存在です。

 

そのためFP側もあれやこれやと手を尽くしてビジネスの形を模索していますが、それが逆に消費者にとってFPという存在をあやふやなものにしているという側面も否定できません。

 

その結果、「FPに相談してみたいけど、どんな人に相談したらいいのか分からない」という、言ってみれば「“お金の相談”難民」を生み出してしまっています。

 

それでは実際のところ、本当に“相談するべき”FPとはいったいどんな人なのでしょうか?

 

今回のコラムでは、この課題に私なりの意見を書かせていただこうと思います。多分に私見も入っていますが(苦笑)、この議題を通じて「私がどんなFPを目指しているのか」を知っていただければ幸いです。


ファイナンシャルプランナーの資格に意味はない?

先ほども述べましたが、日本においてFPという職業はまだまだ黎明期。ビジネスモデルとして決まった形があるわけではありません。

 

これには「FP」という資格制度のあり方も大きく影響しています

 

いまや“人気No1”とも言われるFP資格。日本では「FP技能士」という国家資格と「CFP」という国際資格の二つが存在します。

 

ファイナンシャルプランニングを生業とする者の最低限の義務として、私はそれぞれの最上級資格を保有しています。しかしながら、資格を得て改めて確信したことがあります。それは…、

 

「FP資格自体にはなんの意味もない」

 

今FP資格の勉強をしている人にとってはショックな言葉かもしれません。ただ、FPを仕事にする以上はこの事実を認識する必要があります。

 

なぜなら、FPの資格には他の士業のような“独占業務”が存在しないからです。

 

弁護士や税理士等にはそれぞれ不可侵の業務領域があります。比較的取得が簡単と言われる宅建士でさえ、宅建士にしか許されない業務が存在します。

 

しかしながら、FPの資格保有者にはそれがありません。だれでもファイナンシャルプランニング業務を行うことができますし、それによって報酬を得ることも可能です。

 

このことはつまり、FP資格には「仕事の武器」としての意味合いは極めて薄いということを示しています。

 

それでも、FPが資格として人気があるのは「お金」というジャンルそのものへの関心の高さでしょう。

 

人生におけるとても重要な要素であるにも関わらず、学校では教えてくれない「お金の話」。

 

それを体系的に学ぶことにはもちろん大きな意味がありますが、資格を取得すること自体に何らかの意味を見出すのは、FPという仕事の現状を考えれば難しいと言わざるを得ません。


ファイナンシャルプランナーが提供する“商品”

FP資格に意味がないとしたら、FPが“商品”としてお客様に提供できることはなんでしょうか?

 

考え方はいくつかあると思いますが、私としては「資格取得を通じて得た知識やこれまでの自分自身の経験を通して、相談者にお金に関する助言をすること」だと考えています。

 

“お金の相談”と一口に言っても、実際に持ち込まれる相談は様々です。一つとして同じものはないといっても過言ではありません。

 

そして、これが重要な点ですがその相談に対する「正解」も決して一つではありません。お客様の数だけ「正解」があると言っても良いでしょう。

 

私がFPとして大事にしていることは、「“その人にとって”の正解」です。

 

時にはそれが私個人の考え方と異なる場合もあります。そんな時に「専門家だから」と言って自分の意見を押し付けるのではなく、「“お客様にとって”の正解」を一緒に探す

 

それこそがFPとしての正しいあり方だと考えています。

 

ですから、私にとってFPとはお客様にとっての「助言者」なのです。


「○○専門FP」って変じゃない?

そう考えた時、よく耳にする「○○専門FP」という表現には、どうしても大きな違和感を覚えてしまいます

 

「保険専門FP」「資産運用専門FP」「住宅専門FP」など、世の中に数多くの「○○専門FP」が存在します。

 

「専門家」といえば聞こえはいいですが、FPを「助言者」として考えた場合はその専門性がマイナスに働くこともあります。なぜでしょうか?

 

専門家であるということは、裏を返せば「専門領域以外には詳しくない」ということでもあります。もしお客様のご相談に対する答が自分の専門外だったら、どうなってしまうでしょう?

 

相談されたFPにもメンツがあるでしょうから、なんとか自分の専門領域に話を持ち込もうとするはずです。

 

その結果、お客様へのご提案が「“お客様にとっての”最善の策」ではなく、「“自分の専門領域での”最善の策」になってしまいます。あるいは、そもそも専門領域以外に答えがあること自体に考えが及ばない場合もあるかもしれません。

 

言い方を変えれば、それは「FPにとっての正解をお客様に押し付けている」ことになるでしょう。

 

少し意地悪な表現を使うのであれば、「○○専門FP」とは「自分の領域しか分からないFP」でしかありません。もちろん専門家は大事な存在ですが、ことFPに関して言えば専門性が必ずしもメリットになるとは限らないのです。


「スペシャリスト」と「ジェネラリスト」

ある特定の分野に強い専門家のことを“スペシャリスト”と言ったりします。

 

それに対し、大きな視点で包括的にものを考える立場の人を“ジェネラリスト”と呼びます。

 

私がかつて働いていた映像業界では、ディレクターやカメラマンなどの“スペシャリスト”がたくさんいました。

 

言うまでもなく、ディレクターであれば演出の、カメラマンであれば撮影の専門家です。その他にも美術・衣装・ヘアメイク・編集・CGなど、各パートを担当する技術者が集まって一つの映像作品を作り出していました。

 

ただ、いかに優れた“スペシャリスト”を集めたとしても、それを統括する立場の人間がいなければ良い作品は出来上がりません。映像の世界で言えば、それは「プロデューサー」という“ジェネラリスト”になるのです。

 

お金の世界にも、“スペシャリスト”がたくさんいます。銀行員や証券マン、保険屋さんや不動産業者はそれぞれの分野の専門家と言えるでしょう。

 

それに対し、FPは「お金の“ジェネラリスト”」であると私は考えています。

 

「お金の“ジェネラリスト”」は一つの分野に偏ることなく、俯瞰的な考え方でお客様の「経済的な問題」を解決しなければなりません

 

ですから、プロデューサーという職業が映像に関して幅広い知識を持ち合わせていないと成立しないのと同じように、FPも専門領域以外のことが分からないようではその役目を果たすことはできないのです。


「○○専門」ってそれしかできないってこと?

もちろんFPにもそれぞれに得意分野はあっていいと思います。私も自分の経験を生かした不動産投資や賃貸経営のご相談を得意としています。

 

しかしながら、それだけでは「お金の“ジェネラリスト”」は務まりません。他の分野の選択肢も必ず用意しておく必要があります

 

例えば、お客様の不動産投資に興味を持ったきっかけが団信を利用した死亡保障だとします。「不動産投資専門FP」だとすればその考えを助長することはあれ、反対することは決してないでしょう。

 

ただし、「お金の“ジェネラリスト”」であるFPであれば対応は変わってきます。

 

単純に死亡保障が必要であれば、不動産投資よりも生命保険のほうがよほどリスク(=ブレ幅)が少ないことをお客様にご説明した上で、その人にとって一番良い解決策、つまり「“お客様にとって”の正解」が何かを一緒に考えなければなりません

 

その意味では、「○○専門FP」は既にFPと呼べないのかもしれません。FPではなく、「FP資格を持った○○販売員」と表現したほうが実態に近いはずです。

 

実は現在の日本でFPを名乗る人のほとんどがこうした「FP資格を持った○○販売員」です。私が「FP資格に意味はない」と考えているのには、そんな理由もあるのです。


決めるのはファイナンシャルプランナーじゃない!

相談に来た方に対し、私は「絶対にこうしたほうがいいですよ」と言わないようにしています。これは私のFPとしてのポリシーです。

 

なぜなら、どんなに良く思える解決策でも、全ての方法には必ず「メリット」と「デメリット」があるからです。

 

そして、何を「メリット」と考え、何を「デメリット」と捉えるかは人によって違います。「“その人にとって”の正解」は最終的にはその人自身が判断するものです。決して私の判断基準を押し付けるものではありません。

 

その意味で、私にとってFPの仕事とは、「お客様に解決策の選択肢を提示した上で、どの方法が良いのかをお客様自身が判断できるだけの情報を提供すること」だと言えます。

 

そのためにはFPは「お金の“ジェネラリスト”」として多くの選択肢を持っていなくてはなりません。専門性を盾に自分の考えを押し付けるのではなく、その人にとっての一番良い方法を一緒に考えてくれる人こそが、あなたが本当に“相談するべき”FPではないでしょうか。


(2017/01/25 文責:佐野純一)

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