あなたの判断を狂わす「確証バイアス」の罠

「もしかしたら“情報過多の人”は“情報弱者”よりも厄介かもしれない…。」

 

「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)として「資産運用」のご相談を受けていると、時折こう感じることがあります。

 

私は証券会社の販売代理人ではないので、資産運用と言ってもあまり証券の個別銘柄に言及することはありません。ただ、証券運用がその方の正解だと考えた時には、投資についての根本的な考え方をご説明することがあります。

 

そんな中で、ごく稀にですが「話が噛み合わないな…」という場面に遭遇します

 

「それはお前のコンサルタントとしての力不足だろう」と言われてしまえば返す言葉もないのですが(汗)、何度かそういった事例を経験すると、そこにはある種のパターンがあるように思えてなりません。

 

私が資産運用のお話をしていて「話が噛み合わないな…」と感じるケース。それは「情報を精力的に集めている人」と相対した時に起こることが多いのです。

 

当然、こう聞くと違和感を感じる人もいるでしょう。

 

原則として情報量が多いに越したことはないはずです。「情報弱者」という言葉があるように、知識が少ないが故に貧乏くじを引いてしまう例は枚挙に暇ありません。

 

しかしその一方で、情報が過多になることで引き起こされる弊害も確実に存在するのです。

 

それは一体どんな現象なのでしょうか?

 

金融商品を売らないFPが、コンサルタントの立場からこの現象について解説します。


「信じたいことだけ信じる」=「確証バイアス」

ご相談の際に話が合わないと感じる「情報を精力的に集めている人」。

 

これをより正確に表現するのであれば、「集めた情報の中で自分に都合の悪いものを受け入れられない人」ということになります。

 

人間とは実に因果な生き物で、どうしても自分にとって都合の良い情報を多く吸収する傾向があります。「自分が信じたいと思うことを信じる」と言い直しても良いかもしれません。

 

これは何も特別な人にのみ起こることではなく、多かれ少なかれどんな人でも持っている人間本来の性質なのでしょう。私にもそういった部分はありますし、これを読んでいる皆さんにも心当たりがあるかもしれません。

 

こうした現象は、心理学の世界で「確証バイアス」と呼ばれます。

 

メディアなどに度々取り上げられるインターネット上で極端な意見を主張する人は、膨大なネットの世界から自分にとって都合の良い情報ばかり拾ってきて、その結果偏った考え方が形成されてしまうと言われています。これなどは「確証バイアス」の典型的な例でしょう。

 

そこまで極端なケースではなくても、人は真の意味で客観的にはなり得ない存在ですから、目の前にある情報の中から、自分が心地よいと感じるものを多く取り込む傾向はどんな人にもあると考えられます。

 

あなたも決して見えている情報から均等に知識を吸収するわけではありません。自分の信じるものや考え方に近い情報を優先的に蓄積していくのです。


不動産投資の世界は「確証バイアス」で成り立っている?

ここで「情報を精力的に集めている人」が登場します。

 

自分にとって都合の良い情報を多く蓄積する。そうした行為が繰り返し行われていったらどうなるでしょう?

 

初めは自分の中でほんのちょっと「都合の良い情報」の割合が多かっただけなのに、情報収集を繰り返す度にその比率が増えていき、最終的には知識のほとんどが「都合の良い情報」で埋め尽くされてしまいます

 

ここまで「確証バイアス」が強くなってしまうと、修正するのは簡単ではありません。

 

例えば、私の得意分野である不動産投資。

 

冷静に考えれば誰にでもわかるように、世の中に出回っている不動産投資に関する情報は、そのほとんどが物件を売りたい不動産業者の理屈で成り立っています。

 

当たり前ですが、そこには「不動産投資で儲けたい」「賃貸経営で楽して稼ぎたい」と考えている人にとっては、夢のような情報がたくさん詰まっています。

 

まさに「自分が信じたい」「そうであって欲しい」という話がいたるところに転がっている状態で、不動産業者が書いた不動産投資を勧める本を読めば読むほど、あるいはワンルームマンション業者が開催する無料セミナーに行けば行くほど、その人の「確証バイアス」はより強固なものになっていくでしょう。


成功例だけを見て、失敗例から目を背けると…

以前、様々な不動産投資本を読み漁ったという方のご相談を受けたことがあります。

 

ありがたいことにその方は私が書いた本にも目を通していただいていたのですが、私が重点を置いて記したはずの「賃貸経営の負の部分」が知識としてまったく吸収されずにすっぽり抜けていたことには大変驚ろかされました。

 

私は常々「不動産投資は特別優れた運用方法ではない」というスタンスでご相談を受けますが、もうこのような状態になってしまうといくら大家としての経験を元に“賃貸経営のリアル”をご説明しても聞く耳をもってくれません。

 

こうした現象は他の資産運用の場合でも多く見られ、「確証バイアス」が強くなってしまうと、ごく一部の成功例だけに固執して、その何万倍もある失敗例を“自分の身にも起こりうること”として受け入れることができなくなってしまうのです。


欲しい家が目の前に現れると?

実は「確証バイアス」はライフプランのご相談時にも登場することがあります。

 

特に多いのが住宅購入にまつわる場面で、自分が欲しいと思っている家に対して、その購入を正当化しようとする行為が見受けられるようなケースは決して少なくありません

 

確かに住宅購入は大きな問題ですが、人生にまつわるお金はなにもそれだけではありません。その意味で住宅予算はライフプラン全体のバランスから割り出すべきですし、そもそも論で言えば、購入にこだわらず賃貸という選択肢もあるはずです。

 

ところが、自分が気に入った物件を目の前にすると「確証バイアス」が発動してしまう人は珍しくありません。

 

「この家が欲しい」という気持ちが強すぎてしまい、都合の悪い情報や否定するような考え方を遮断してしまうのです。その結果、無理な住宅予算を組み、ライフプランに大きな歪みが生じる事態を招いてしまいます。

 

最悪の場合、家計が回らなくなってその気に入った家を手放さなくてはならなくなることもあり、こうした例などは「確証バイアス」が生み出した悲劇とも言えるでしょう。


「確証バイアス」の呪縛から逃れるためには…

ある意味では、ご相談にいらした方のお金に関する「確証バイアス」をときほぐすことが、コンサルタントとしてFPに求められている役割なのかもしれません。

 

私も「“お金の相談”の専門家」としてこの問題には向き合っていかないといけないわけですが、その一方で、ご本人が一歩立ち止まって冷静に考えてみることが、「確証バイアス」の罠から抜け出す最も有効な手段であることも確かです。

 

すでに触れた通り、「確証バイアス」は特別なものではなく、誰にでも起こりうる現象です。あなたがこの先何か大きな決断をしなければならない時、自分自身がこうした思考の呪縛に囚われていないかを自問する必要があるかもしれません。

 

「自分に都合の良い情報ばかりを選択していないか?」
「自分が信じたいと思う情報だけを信じてしまっていないか?」

 

こうした「確証バイアス」の呪縛から解き放たれた時、本当に自分が進むべき道が見えてくるはずです。


(2020/12/16 文責:佐野純一)

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