不動産は今が売り時?

「不動産を売るなら今だ!」という声を根強く聞きます。

 

「2020年に開催される東京オリンピックを機に不動産の値が下がる」という説はかなり広く浸透していて、自宅のみならず収益物件をお持ちの方の中でも「今、売った方が良いのではないか」と考えている方は少なくありません。

 

本当に東京オリンピックの後に不動産の価格が下がるかどうかは別として(そう主張している人に理由を聞いてみても、あまり納得できるお返事をいただいたことがありません-笑)、私のところにも収益物件の売却のご相談が多いのも事実です。

 

そこで今回のコラムでは、自ら賃貸経営を営む「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)が、現役大家としての目線でアパートやマンションなどの「収益物件の正しい売り方」を4つのステップに分けて解説します。


Step@ 「本当に売るべきか」を考えよう

当たり前のことですが、まず始めに「本当に売った方が良いかどうか」をきちんと考えるべきです。

 

売却のご相談の中には「なんとなく今なら高く売れそうだから…」という理由で売却を検討されている方もいらっしゃいます。

 

あるいは、仲介手数料が欲しい不動産業者に「今売らないと損しますよ!」などと強く勧められているようなケースも見受けられます。実際、私のところにも売却を勧める不動産業者からのDMが大量に届きますから、それらを眺めているうちについついその気になってしまうのかもしれません。

 

それ自体はあながち間違いとは言えないかもしれませんが、検討理由が「高く売れそうだから売る」だけというのは少し短絡的な発想かもしれません。特にローン返済も終わって、現状で確実にインカムゲイン(家賃収入)を上げてくれている物件であればなおさらです

 

その物件を売却するということは、当然「今後得られるであろう家賃収入を手放す」ということになります。

 

まずは、「一時的な売却益」と「継続的な家賃収入」のどちらが良いのかを慎重に見極める必要があるでしょう。


StepA 不動産業者を選ぼう

今後のインカムゲインと秤にかけて、それでも売却のほうが良いと判断したのであれば、次は不動産業者選びです。

 

ご相談を受けて結構驚かされるのが、売却をその収益物件の管理会社に依頼するケースです。

 

これまで物件の管理をしてきてもらっているのでコミュニケーションが取りやすいという利点はありますが、賃貸管理と売却はまったくの別物。一口に“不動産業者”と言っても、その業務内容が会社によって大きく異なる点には注意が必要です。

 

「賃貸の管理」と「物件の売買」でも当然不動産業者が担う役割は違うものですが、同じ「売買」という括りの中でも「自宅」を売るのと「収益物件」を売るのではまた違うお話です。

 

買い手を探すマーケットも違えば、買主に対する交渉内容も違います。引き渡し後に揉めないためのポイントもまた異なりますので、やはりアパートやマンションを売るのであればそうした収益物件売買の経験値が高い業者に依頼するべきでしょう。

 

私が収益物件売却のご相談を受けた時は、まずは収益物件専門の不動産業者に査定を依頼するようにしています(逆にご自宅売却のお話であれば、収益専門ではない他の不動産業者に話を持ち込みます)。その方が対象物件の長所や短所、現在の市場の動向を鑑みて適切な査定を出してくれる可能性が高いからです。

 

業務内容だけを考えれば、賃貸管理会社は全ての不動産業者の中でも収益物件売却から最も遠い存在です。実際にあった例ですが、管理会社の査定と収益専門の不動産業者の査定では、1,000万円以上の差が出たことがありました

 

そのケースでは、管理会社に収益物件査定の経験値が少なかったため、教科書通りの再調達原価法(もう一回作ったらいくらかかるか)で計算していました。それに対し、収益専門の業者は収益還元法(その不動産がどのくらいの儲けを生み出すか)から査定金額を導き出した結果、後者の方が1,000万円以上も高い査定額になったのです。

 

ただし、収益専門の不動産業者は「高い物件を売買して高額の手数料を稼ぐ」という収益構造のせいか、様々な会社があるのも確かです。もしあなたが不動産業者に対して「怖い」とか「怪しい」「強引だ」というような印象をお持ちの場合、そのイメージを体現するような会社が他の分野よりちょっと多いかもしれません(苦笑)。

 

その意味では、「良い収益専門の不動産業者」の見極めには細心の注意を払う必要があるでしょう。


StepB 視野を広く持とう

そんな「良い収益専門の不動産業者」を探すだけでも一苦労ですが、可能であれば複数の不動産業者から話を聞きたいものです。

 

収益専門の不動産業者と言っても、実はそれぞれに得意分野があったりします。エリアはもちろん、建物の構造や築年数などでも不動産業者の守備範囲は違います。

 

また長くその世界で仕事をしている会社であれば、それぞれ独自のネットワークや顧客を持っていたりします。世の中に広く告知をしなくてもその業者のネットワークだけで売却の話がまとまったりすることも珍しくありません

 

そういった点も踏まえ、できれば複数の不動産業者に話をもっていき、それぞれの話を聞いてみたいところです。

 

しかしながら、不動産にあまり詳しくない人が複数の業者を相手にするのはなかなか骨の折れる作業です。こちらが詳しくないことを見てとると、それぞれの業者が自分にとって都合の良いことしか言わない可能性があるからです。

 

例えば、「査定金額を実際の価格より高めに言う」などというのはその典型的な手口です。

 

売るのであれば高いほうが良いに決まっていますので、売主としては査定金額が高い業者に依頼したくなるのが人情ですが、査定はあくまでも査定。その金額で売ることを約束するものではありません。

 

不動産業者が仕事欲しさに査定金額を高めに出しておいて、後で「頑張りましたけどダメでした〜!」と言ってくるのは、不動産売買の世界では日常的に行われている行為です。ですから私が売却のご相談を受けた時には、私が不動産業者との間に入る、あるいは打合せに同席することで、そのような不毛な行為が行われないようにしています。


StepC 最後にもう一度「売ったほうが良いか」の判断を

さあ、ここまでくれば具体的な売却金額も見えてくるはずです。

 

出てきた数字を見て「おっ、思ったより高いな」と感じる方もいれば、「あれ? このぐらいにしかならないんだぁ…」と思う方もいるでしょう。

 

ここでもう一度原点に立ち返って考えていただきたいのです。

 

「この物件をこの金額で売った方が良いか」ということを。

 

残念ながら、この判断について不動産業者から助言を得ることはできません。

 

ここまで色々動いてきた彼らとしては、タダ働きをするのはゴメンです。不動産業者は売買にかかる仲介手数料がその収益源ですから、「売らない方が良い」とは絶対言えないのです。これは個々の営業マンがどうというより、不動産業というビジネスとしての構造の問題だと言えるでしょう。

 

一方の売主としても、これまで不動産業者が頑張ってきてくれたのは分かっていますから、「タダ働きさせるのは申し訳ない」という気持ちになるかもしれません。

 

しかし、そこは心を鬼にしてもう一度「本当に売った方が良いのか」を考えていただきたいのです。冒頭で申し上げた通り、「収益物件を売却する」ということは、「そこから上がる家賃収入を手放す」ということに他ならないのですから。

 

少し乱暴な計算になってしまいますが、例えば年間600万円の家賃収入がある物件が、一年後に600万以上売値が下がる可能性はどのくらいあるでしょうか? そうならないのであれば、売るタイミングは“今”ではなく“一年後”でもよいはずです。

 

売買を商売にしている不動産業者はその道のプロですが、大家業を営んでいない以上インカムゲイン(家賃収入)のことは分かりません。最終的には大家自らがしっかりと自分の意思で判断する必要があるのです


売るなら高いほうがいい! でも…

ここまで一連の流れを見てきたように、アパートやマンションなどの収益物件を売るにはそれなりの“コツ”があります

 

それぞれの判断は、収益物件そのものの条件はもちろんのこと、所有者の資産状況や年齢、相続問題の有無によっても変わってきます。その意味では、ライフプランを含めた包括的な視点が必要になってくるでしょう。

 

売るのであれば高い方がいいに決まっていますので(笑)、売却を決めた場合は売主として価格が高くなるように努力をするべきですが、常に頭の中には「本当に売った方が良いのか」という考えを持ち続けることが重要です。

 

不動産業者にとっては「売却して手数料を稼ぐ」のが目的ですが、所有者である大家にとっては売却はただの“手段”に過ぎないはず。なんの“目的”のためにその手段を用いるのか。その順番を誤ってはいけません。

 

肝心なのは、不動産業者の理屈ではなく、「あなたにとってどのような選択肢がベストか」なのですから。


(2017/10/11 文責:佐野純一)

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