「これはもしかして“お宝物件”か?」
収益物件を扱うサイトを見ていると、たまにそう思うような物件に出会うことがあります。エリアや規模から考えた時に、とてつもなく安い金額で売られている物件というものが存在するからです。
誤解のないように最初に申し上げますが、私は始めから“お宝物件”というものを信じていません。
不動産に限らず、世の中で取引されている全ての物の売値にはそれ相応の理由があるはずで、そうした経済の原則から言えば“お宝物件”などが存在すると考える方が不自然だからです。
それでは、こうした「格安物件」は一体どういった経緯で誕生するのでしょうか。
悪質な不動産業者の釣り広告? もちろんその可能性もあるでしょう。
ただ、相場に比べて不相応に安い金額で売買されている収益物件というものは、それなりの数が存在します。その全てが釣り広告と考えるのにも無理があります。
繰り返しになりますが、存在するからと言ってこうした物件が“お宝物件”であることは決してありません。当然の話ですが、安いには安いなりのワケがあるのです。
そのワケを紐解くキーワードは「道」。
今回のコラムでは、自ら賃貸経営を行う「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)が、不動産の価値を決める重要な要素である「道」について解説します。
突然ですが、今あなたが住んでいる家は「どんな道」に「どのような形」で接しているでしょうか。
交通量の多い大きな道路に接しているマンションもあれば、一方通行の狭い道に建っているアパートもあるでしょう。入り組んだ細い路地裏の奥にひっそりとある一戸建てだってあるはずです。
考えてみれば当たり前のことですが、全ての住まいは何らかの形で道に接しています。住んでいる人が出入りする以上、道に接していない住宅は存在しません。
日本における建築物のルールを決める「建築基準法」でも、建築物の敷地は道に接していることが義務付けられていて、これを「接道義務」と呼んでいます。
敷地が道に接していなければそもそも建物に入ることもできませんから、このルールは当然と言えます。ただ、注意しなければならないのは、日頃我々が使う「道」という言葉と、建築基準法で定められた「道」では、その意味が異なるという点です。
我々が日常的に使う「道」という言葉の意味は、非常に広範囲に渡ります。幅が何十メートルもあるような国道も「道」ですし、ほとんど人が通らないような山奥のけもの道も「道」です。
端的に言えば、他の条件はどうであれ、人が通ることさえできればそこは「道」と呼ばれているのです。
しかしながら、建築基準法で定められた「道」の意味は違います。
この場合の「道」とは「幅4メートル以上の公道(国や市区町村が所有する道)」であり、それ以外は「道」として認められていません。幅が4メートル以上なければ「道」ですらないわけですから、日常的に我々が考える「道」の概念とは大きくかけ離れています。
例外的に、個人の所有する私道も一定の条件を満たせば「公道に準ずるもの」として扱われることがありますが、この場合も幅4メートルというルールを守らなければならず、私道(あるいは幅4メートルに満たない公道)に接した敷地に建物を建てる時は、きちんと道幅を確保することが要求されます(これを「セットバック」と呼びます)。
さらに建築基準法では、ただ敷地が道に接していれば良いというわけではありません。2m以上の幅で敷地が「道」に接していることが義務付けられています。
つまり、建築基準法においては
という二つの条件をクリアできなければ、その土地での住宅建築を認めないということになっているのです。
それだけ聞けば当たり前の話かもしれません。
現に我々が住んでいる住宅はこの建築基準法のルールに則って建てられているわけですから、日頃生活する中で「接道義務」を感覚的に“常識”として捉えているのは自然なことでしょう。
しかしその一方で、都市部の古い住宅密集地域に目を向けると、この要件を満たしていない住宅が多く現存しているのも事実です。改めて周辺を見渡してみれば、きっとあなたの家の近くにも幅4メートル以上の道路に接していない住居があるでしょう。
こうした建物は建築基準法が整備される以前に建てられたものか、もともと建築基準法に則らずに建てた、いわゆる「違法建築」の可能性が高いわけですが、このように「接道義務」を果たしていない敷地に建てられている場合、その物件はマーケットに於いてどのように扱われるのでしょうか。
結論から言えば、こうした土地は建築基準法上「宅地」として認められません。
このことはつまり、その場所が「建物を建てられない土地」であることを意味しています。
さすがに、よほど悪質な違法建築でもない限り、接道義務を果たしていないからといって行政から現存する建物の取り壊しを命じられるケースは稀ですが、敷地が「宅地」として認められていない以上、今ある建物が老朽化によって朽ち果ててしまったとしても、新しく建物を立て直すことはできません。
こうした物件は「再建築不可」と呼ばれ、売却が非常に難しい案件となってしまうのは誰にとっても想像に難くないところです。
さあ、もう話が見えてきたと思います。
不動産サイトに登場する格安の収益物件は、このような「再建築不可」のものがほとんどです。
確かに安い金額で買い取れば、始めのうちは瞬間風速的に高い利回りを稼ぎ出すことができるでしょう。
しかし、なんらかの理由で現状の建物がなくなってしまったら、もう一度アパートを建てることはできません。端的に言えば、建物がなくなった時その土地は宅地としての寿命を迎えてしまうのです。
現在の日本において土地は「価値が落ちにくい資産」の代表とも言える存在ですが、このような接道義務を果たしていない物件は、「土地が資産として価値を失う数少ない例」と言えるのかもしれません。
「再建築不可」はその最たる例ですが、接する道が土地に与える影響は他にもあります。
例えば、その土地にどのくらいの大きさの建物を建てられるのかを決める「容積率」。
容積率は都市計画法に基づき地区ごとに定められていますが、接している道の幅によってはこの容積率が制限を受けることがあります。火事などが起きた時に「接している道が狭いと十分な避難経路が確保できない」というのがその理由です。
また、土地自体に十分な面積があっても接道状況により、十分に土地のポテンシャルを発揮できない場合もあります。
具体的には、戸建てが何戸も建てられるだけの広さがあるのに、土地を分割してしまうと道に接していない敷地が生まれてしまうため、分けるに分けられないようなケースがそれに該当します。
こうした案件では広い土地を有効活用することができず、同じエリアの同じ広さの土地と比較して売却価格が大幅に下がってしまうのが一般的です。
さらに言えば、自治体の条例によってアパートなどの集合住宅の場合は2メートル以上の接道を義務付けているところもあり、状況によっては、広大な土地がありながらポツンと一戸建てを建てるしか選択肢を持てないような土地も存在します。
いかがでしょうか。宅地における接道状況の重要性がお分かりいただけたかと思います。
その意味では「土地の価値は道が決める」と言っても過言ではなく、自宅用にせよ投資用にせよ、不動産を購入する時にはその土地の接道状況をしっかりと確認する必要があります。
いくら現状の利回りが良く、一見“お宝物件”に思えたとしても、「再建築不可」の物件では現実的な出口戦略を描くことができません。
私がご相談を受ける時にいつも言うように「賃貸経営とはマラソンのようなもの」。長期的な視点を持って、その物件のポテンシャルを見極めることが非常に重要です。
格安物件にはそれなりのワケがあります。安易に手を出して「安物買いの銭失い」にならないように注意しましょう。