「不動産投資」はサラリーマンのためのもの?

「個人事業主」と「不動産投資」と聞くと、もしかしたら奇異な組合せに感じる方もいらっしゃるかもしれません。

 

不動産投資本などによく登場する「サラリーマン大家」という言葉に代表されるように、一般的には「不動産投資とは会社員がやるもの」というイメージが強いからです。

 

しかしながら、私のところに不動産投資のご相談にいらっしゃる方の中には、自分で商売をしている自営業の方や、会社に属さずに仕事をしているフリーランスの方も少なからずいらっしゃいます

 

その人たちはどんな経緯で不動産投資に興味を持ち、また不動産投資によってどんなことをしたいと考えているのでしょうか。

 

そして、本当に不動産投資はサラリーマンのための運用方法なのでしょうか。

 

今回は、自ら賃貸経営を行う「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)が、「個人事業主」と「不動産投資」の理想の関係を考えてみたいと思います。


個人事業主が不動産投資に興味を持つ理由

一口に「個人事業主」といっても、その形は様々です。 

 

個人経営でお店を構えている人もいれば、フリーランスとして著作業や編集者をしている人もいるでしょう。私が以前働いていた映像業界では、監督やカメラマンなどの「技術職」として自らの生計を立てている人がたくさんいました。

 

私の経験上、そうした個人事業主の方が不動産投資に興味を持つ大きな理由の一つは、「将来の不安」です。

 

特に「今は収入があって蓄えもできてるけど、将来はどうなるか」という不安は、個人事業主であればどなたにでもつきまとうものでしょう。

 

怪我や病気に対する備えは、生命保険でもある程度はカバーできるかもしれません。しかし、将来的に収入自体が減ってしまうことに対しては、保険は役に立ちません。事故などの外的要因がある場合を除き、保障の対象にならないからです。

 

「もし将来仕事が減って収入が落ちてしまったら…」
「もし体力的に今のような仕事が続けられなくなってしまったら…」

 

そうした不安に対する解決策として、不動産投資に興味を持つ個人経営やフリーランスの方は多くいらっしゃいます。


自営業と不動産投資の相性は?

では、本当に不動産投資はそうした「将来の不安」に対する答えになってくれるのでしょうか?

 

もちろん最終的にケースバイケースで検討する必要がありますが、一般論で考えれば、不動産投資には個人事業主が求めている特性が2つ備わっていると考えられます。

 

一つ目は、「本業と両立できる手離れの良さ」です。

 

よく言われる「家賃収入=不労所得」という考え方は、私は日頃から全力で否定しています。なにも考えない、なにも行動しない大家はこれからの時代に生き残っていけないと考えているからです。

 

その一方で、「賃貸経営は一度形ができてしまえば他の仕事に比べて手間がかかる商売ではない」というのもまた確かです。生みの苦しみはありますが、軌道に乗せてしまえば本業との両立は十分に可能でしょう。

 

二つ目は、なんと言っても「賃貸経営がもたらす安定感」です。

 

毎月決まった家賃をもたらしてくれる賃貸経営では、個人経営の店舗のように毎月の売り上げが大きく変わることはありません。もちろん空室リスクについては対処が必要ですが、長いスパンで見ても急激に売り上げが落ち込む可能性は少ないと言えます。

 

不動産投資は他の運用手法に比べて爆発的な利回りを期待することはできませんが、逆に抜群の安定感を誇ります。これこそ個人経営やフリーランスの不安定さに悩む人にとってはなによりのメリットでしょう。

 

この2つの特性を考えれば、「個人事業主と不動産投資の相性は良い」と考えてもいいはずです。


個人事業主の前に立ちはだかる壁

ただし、実際に個人事業主が不動産投資をしようと考えた時、そこに立ちはだかる大きな壁があります。

 

その壁とは、そう、「融資の難しさ」です。

 

本来であれば、収益物件のローンは家賃収入で返していくもの。事業計画が十分に成り立つ優良物件であれば、所有者の職業は関係ないはずです。

 

ところが、金融機関はそうは考えません。融資に関して言えば、自営業者はどうしても会社員より不利になります。

 

個人事業主の場合、所得税の負担を減らすため確定申告の所得をなるべく少なく計算するのが一般的です。

 

そのため申告した所得と実際の家計が大きく異なるケースが多く見受けられます。「キャッシュフローはあるが納税額は少ない」という形が、自営業者にとって一種の理想形でしょう。

 

しかし、金融機関が融資審査時に見るのは、この「申告した所得」の部分です。

 

そうなると仮に世帯としては同じようなキャッシュフローであっても、審査対象となる所得は会社員より少なくなってしまいます。その結果、個人事業主の融資限度額は低くならざるを得なくなってしまうのです。

 

もう一つ、「収入の不安定さ」も審査を厳しくする理由になります。

 

一般的な会社員であればよほどのことがない限り収入が急激に落ち込むことはありませんが、自営業は違います。

 

いつ何があるか分からないのが自営業の宿命。その分、金融機関が審査する目が厳しくなったとしても、ある意味仕方がないことと言えるでしょう。

 

こうして考えると、個人事業主にとって不動産投資とは「実行すれば効果があるけれど、実現が難しいもの」と言えるのかもしれません。


まず「資産形成」であることを認識せよ!

それでは個人経営やフリーランスの方が不動産投資を実行し、なおかつ成功させるためにはどうすればいいか。

 

そのポイントは、実は「不動産投資の始め方」にあります。

 

個人事業主が不動産投資を始める時に大切なこと。

 

それは、自分が行う不動産投資が「資産形成コース」であることを認識するという点です。

 

既に所有している土地や資産を活用して家賃収入を得るのが「資産運用コース」だとすれば、長い時間かけて「家賃収入」という“他人のお金”で不動産という資産を作っていくのが「資産形成コース」です。

 

この両者の違いを認識せず、「資産運用コース」だと思って始めから家賃収入を無駄に使ってしまうようでは、将来の成功は遠のくばかりです。本業と同じように賃貸経営も一つの事業として捉えることが始めの一歩でしょう。

 

さらに個人事業主の場合、賃貸事業の収支計画はよりシビアに考えるべきです。いざと言うときに安定した給与収入で補填するという考え方ができないからです。

 

サラリーマン大家の中には頭金なしで不動産投資を始める人もいますが(それが正解だとは思いません、念のため)、自営業者にとってその考え方はリスクが大きすぎます。

 

まずは十分な初期費用を用意し(そうすることによって融資条件も緩和されます)、さらに状況によっては追加資金の投入によって賃貸事業の安定化を図る必要も出てくるでしょう。そもそもの目的を考えれば、不動産投資のメリットである「安定感」に焦点を当てた経営方針も十分にあり得るはずです。

 

もちろん、時間を有効に使うことも大切です。

 

繰り返しになりますが、「家賃収入」という“他人のお金”を使って「不動産」という“自分の資産”を作るのが「資産形成コース」です。時間を味方につけて、“他人のお金”を利用する時間が長くすることができれば、その効果はより高くなります。

 

ですから、決して即効性を求めてはいけません。将来のために今からコツコツと資産を大きくしていく。そんなイメージが大切です。


モデルケースで考えてみよう

具体的なモデルケースで考えてみましょう。ご相談者はこんな方です。

 

《Aさん 35歳男性 お子さん1人の3人家族》

  • 職業…映像作家(演出家、映像監督)
  • 収入…事業所得 1,000万円
  • 資産…現在の貯蓄 3,000万円
  • 不動産投資の目的…不規則で体力的な消耗が激しい職業なので、55才以降は仕事量を減らしたい。不動産投資でその分の収入を得たい。
Aさんの不動産投資方法
  • 物件種別…一棟アパート
  • 物件価格…8,000万円(頭金2,000万円、借入金6,000万円)
  • 家賃収入…年間500万円(表面利回り 6.25%)
  • アパートローン…借入期間25年 金利2%(毎月返済額 25.5万円)
  • 運用方針…家賃収入はそのまま借入返済に充て、20年でのローン完済を目指す
Aさんの20年後

20年間はこれまで通りのペースで映像作家を続け、生活費・教育費・住宅費は本業からの収入で賄うことができた。一方、家賃収入はそのまま全額を繰り上げ返済したため、当初25年間で組んだアパートローンを20年間で完済する目標を達成した。

 

アパート購入時に比べ家賃は10%程度下がったが、毎年約450万円の家賃収入を確保できたため、映像作家としての仕事は約半分にセーブ。今後も体に負担がかからない程度に調整しながら、長く仕事を続けようと考えている。


20年後には“可能性の海”が広がっている

20年後の状況によっては、Aさんの今後の展開に様々なバリエーションが考えられます

 

購入した物件の築年数によっては建直しをした方がいいケースもあるでしょう。あまりコストをかけずに立て直せば、土地が自分のものになっている分だけ融資条件も有利になり、収益物件としても高い利回りを期待できます

 

逆に、コストをかけて耐久性の高い建物を建てることで「お子さんに資産を遺す」という選択肢もあります。月々の手取りは少なくなってしまいますが、長く続く「キャッシュフローの仕組み」を子供に遺してあげることができます

 

ローン完済までの過程で本業が順調に行けば、さらなる追加投資も可能かもしれません。

 

追加投資も「アパートローンを早く返済する」「建直しの資金を投入する」「追加で収益物件を購入する」等、いくつものプランが考えられます。

 

本業の状況やそれにまつわる所得税のこともありますので、初めから追加投資ありきで考える必要はありませんが、オプションとしてこれらの選択肢を持っておけば、Aさんの不動産投資の可能性はさらに広がります


将来の不安を解消するためには?

「時は金なり」という言葉通り、資産運用には“時間“という要素が非常に重要となります。

 

それは不動産投資に於いても例外ではなく、Aさんのような運用をリタイアを目前にして始めたとしても、良い結果は得られないでしょう。運用の期間が短いため、いわゆる「レバレッジ効果」が得られないからです。

 

ましてや資産形成コースの賃貸経営は、「借入金(アパートローン)」という“他人のお金”を「家賃収入」という“他人のお金”で返していくという極めて特殊な運用方法です。

 

運用の安定性を高め、さらにレバレッジ効果をきちんと自分のものとするには、“時間”を味方につけた収益計画を立てることが大事なポイントです。

 

漠然とした将来の不安は、ただ放っておいても解決しません。

 

不動産投資が全ての人にとっての正解になるとは限りませんが、もし御自身の将来に少しでも不安を感じているのであれば、ぜひ一度「不動産投資が自分にとっての“解決策”となるのか」を検討してみてください。


(2016/12/14 文責:佐野純一)

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