きっかけは「金持ち父さん」?

「“金持ち父さん”を読んで不動産投資に興味を持ちました!」


ファイナンシャルプランナー(FP)として不動産投資のご相談を受けていると、一定の割合でこんなお客様と出会います。


ここでいう“金持ち父さん”とは、言わずと知れたあのベストセラー「金持ち父さん 貧乏父さん」のこと。


ロバート・キヨサキによって1997年にこの世に送り出されたこの本は世界中で大ヒットし、多くの続編も生まれました。日本でも一時ブームを巻き起こしましたので、一定以上の年齢であればお手にとった方も多いでしょう。


しかし、こんな方にお会いする度に私はなんとも言えぬ違和感を覚えていました。その違和感の正体を確かめるために先日改めて「金持ち父さん 貧乏父さん」を読み直してみたところ、ある一つの結論に達したのです。


「この本って“不動産投資”の本じゃないよね?」


なぜ私がそう思ったのか? そして、なぜ世の中的にはこの本が不動産投資の本だと思われているのか?


その点を突き詰めて考えてみることで、いつもとは違った観点から「不動産投資の本質」が見えてくるかもしれません。自ら賃貸経営を行い、「“お金の相談”の専門家」でもある現役大家FPと一緒にその理由を考えてみましょう!


“金持ち父さん”が本当に伝えたかったこと

著者であるロバート・キヨサキが「金持ち父さん 貧乏父さん」の中で伝えたかったのはどんなことでしょう。私は大きく次の2点だと思います。

  1. 「死ぬほどお金の勉強をしろ!」
  2. 「自分で事業を起こせ!」

@は「お金儲けをするにはお金のことを知らなければならない」という、考えてみれば極めて当たり前のお話です。このサイトでもよく触れるように、税金も含めたお金の知識は資産を増やしていく上で必要不可欠なものです。


Aは、著者が「ラットレース」と呼ぶ給与所得者の限界を打ち破るためには、「自分で法人を作らなければならない」という主張です。ある意味では、お金の勉強を死ぬほどした結果、ロバート・キヨサキがたどり着いた一つの結論と言えるでしょう。


端的に言えば、この二つの点を主張するために様々なエピソードや著者自身の経験談(時には自慢話?)が書かれているのが、この「金持ち父さん 貧乏父さん」という本です。


私の読解力が足りないせいでしょうか?


どこにも「不動産投資をしよう!」とは書いていないように思えます


確かに不動産の話は出てくるが…

確かに文中に不動産に関する話はでてきます。


ただ、そのほとんどは「不動産を安く買って高く売った」というエピソードで、いわゆるキャピタルゲイン(売却益)を得た経験談になっています。


一見すると著者の目利き自慢にも聞こえる箇所ですが、本質はもっと別のところにあるでしょう。


少し乱暴な表現になりますが、時代と場所さえ間違わなければ不動産のキャピタルゲインを得るのはそれほど難しいことではありません。このエピソードの肝心な点は、そうしたタイミングを掴んだ筆者が「借金」というリスクを犯してでも投資することを選択した、その決断力ではないでしょうか。


お金の勉強をしっかりとした著者だからこそ、借金をネガティブな要素として捉えず、むしろ「他人資本」という自分の武器として使うことができたと言えます。


「時代と場所さえ間違わなければ」と書きましたが、これを間違えてしまうと大変です。キャピタルゲインどころかキャピタルロス(売却損)を背負ってしまうことになりかねません


不動産投資におけるインカムゲイン(賃料収入)には安定性はあれ爆発力はありませんから、キャピタルロスが大きな額になった場合にはその穴埋めをするのは至難の業と言えるでしょう。その意味で、キャピタルロスは不動産投資失敗の大きな要素の一つです。


ロバート・キヨサキがキャピタルゲインを得ることができたのも、ただ運が良かっただけではなく、彼が絶え間なくお金の勉強をし続けたからこそチャンスを掴めたと捉えるべきです。


現在の日本でキャピタルゲインが狙えるか?

では、どんな時代と場所であればキャピタルゲインが得やすいのでしょうか?


不動産に限らず、物の値段は需要と供給の関係で決まります。買おうとする人が多ければ多いほど、その価格は上がっていきます。


この原則を不動産に置き換えれば、その土地や建物を欲しいと思う人がどんどん増えていけば価格が上がっていき、キャピタルゲインを得やすくなるということになります。


そうだとすれば、今の日本でキャピタルゲインを得ることは簡単でしょうか?


残念ながら、その答えは「No」でしょう。そうです、不動産価格が上がっていくためには国の発展と人口の増加が不可欠だからです。


2023年現在、東京オリンピックの開催やコロナ渦における巣ごもり需要、そして世界情勢の悪化による建材の高騰などを原因として、特に首都圏では不動産価格の高止まりが続いています。


この状況はしばらく継続しそうですが、それでも現状からキャピタルゲインを狙えるほど今後不動産価格が上がっていくかは大いに疑問です。既に日本は人口減少社会に突入しており、その街に住む人が少なくなっていけば、いずれ不動産の価格は下がっていくはずだからです。


その点において、局地的な例外はあるにしろ、現在の日本に於ける不動産投資はインカムゲインに焦点を当てるのがスタンダードになっていると考えられます。


このことはつまり、今の日本でロバート・キヨサキの真似をしようとしても、それは容易ではないということを意味しています。この本を読む限りロバート・キヨサキはインカムゲインに重きを置いていませんから、表面だけ彼の真似をしようとしたら取り返しのつかない失敗をする危険性すらあります。


その意味もあって、特に現在の日本に於いて「金持ち父さん 貧乏父さん」は不動産投資の本ではないのです。


ましてや「楽をして儲けよう」なんてどこにも書いてない!

この本を読んで不動産投資の意味を取り違えてしまうだけであれば、まだ軽傷です。


どうも「金持ち父さん 貧乏父さん」で不動産に興味をもった方が、自分でいろいろ調べていくうちに「不動産投資は不労所得!」という不動産業者や建設会社の売り文句に影響されてしまうケースは少なからずあるようです。


その結果、中には私のところに相談に来て「金持ち父さんを読んで、不動産で楽をして儲けようと思いました!」と言う人もいます。


そう言われた時の私の頭の中は「?」でいっぱいです。


「あの本のどこにそんなことが書いてありましたっけ???」


あの本に登場する“金持ち父さん”が「不労」のようにはとても思えません。それどころか寝る間も惜しんで働いているように感じます。


大事なのは、「常にお金の勉強を怠らない」こと、そして「仕事を自分の事業とする」こと。


そうしたこの本の本質に目を向けずに、魅力的な部分だけを自分に都合の良いように解釈したのでは、どうにも明るい未来は待っていそうにありません


そんな人達が不動産投資で失敗して大変な目に合わないためにも、私は最後にもう一度声を大にして言いたいのです。


「金持ち父さんは、“不動産投資”の本じゃない!」と。


(2023/05/03改訂 文責:佐野純一)

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