不動産投資は「自分年金」になるってホント?

「不動産投資は年金の代わりに最適です!」というのは、投資用マンションデベロッパー営業の常套句です。

 

彼らの理屈としてはこういうことでしょう。

  1. 35歳から始めたらローンは65歳で終わる。
  2. これ以降は家賃は丸々儲けになる。
  3. 退職後の収入として見込める。

定番中の定番の売り文句ですが、これはあくまで自社マンション販売を仕事としている「売り手」の理屈。実際に購入する側に立った時、はたしてそんなにうまく行くものかと疑念を持っている人も多いはずです。

 

そこで今回のコラムでは、自ら賃貸経営を行う「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)が、現役大家の立場から「自分年金」としての不動産投資を検証します。不動産業者の営業トークを鵜呑みにする前に、ぜひご一読ください。


実際のところ老後資金ってどうなの?

そもそも、なぜ人は「年金代わり」という言葉にこうも惹かれるのでしょうか。

 

そこには公的年金への不信感、そして自分自身の老後資金への不安が見え隠れします。

 

2019年に金融審議会が発表した「老後資金が2,000万円不足する」というレポートが大騒ぎになったように、度々メディアを賑わせる老後資金問題。報道だけを見聞きして、闇雲に不安に駆られる方も多いようです。

 

なぜ現代社会に於いてここまで老後資金がクローズアップされるのか。その点を考えるのであれば、一つのシンプルな問いかけが出発点になるでしょう。

 

「年金の他に老後資金がいくら必要なのか?」

 

もちろん、この問いに対する答えは各家庭によって変わってきます。金融審議会の「2,000万円」という数字もあくまで統計上の平均値にすぎません。ただ、こうした具体的な数字の根拠を紐解くことで、老後資金の考え方が見えてきそうです。


老後の支出はどのくらい?


少し想像してみてください。自分が退職していわゆる「老後」に突入した時に、日々の生活にはどのくらいのお金がかかりそうでしょうか?

 

金融広報中央委員会が行った「家計の金融行動に関する世論調査(令和4年)」によりますと、「夫婦二人の老後ひと月当たり最低予想生活費」は約35万円となっています。これは毎月の基本的な生活費の他、年間単位で発生する旅行なども含んだ数字と考えてください。

 

この金額に対して「自分はそんなに使わない」と感じる人も少なくありません。確かに若い頃に比べると一度に大きなお金を使う機会はそう多くないでしょう。しかし、その分圧倒的な量の「お金を使う時間」を手に入れます。退職して仕事をしなくなり、そんな「お金を使う時間」に恵まれた毎日続いたらどうなるでしょうか?

 

結果として支出は現役時代と変わらない、人によっては現役時代より増えるというケースがあってもおかしくありません。その意味で、ご夫婦での老後の生活費が月額で35万円、年間で420万円程度というのは、現実的な数字のように思えます。

 

老後の収入はどのくらい?


一方、老後の収入として真っ先に思い浮かぶのが「公的年金」です。

 

公的年金はその人がこれまでどのような働き方をしてきたかによって大きく変わります。ここではモデルケースとしてご夫婦で月額25万円、年間300万円をもらう例を考えてみましょう。イメージとしては夫はずっと厚生年金、妻は育児のため専業主婦(第3号被保険者)の期間もありますがそれ以外は厚生年金に加入していたようなケースです。

 

老後の収入が公的年金だけだとすると、年間で切り崩す貯金の額は「420万円 - 300万円 = 120万円」。毎月10万円が貯蓄から減っていく計算になります

 

あとはこの状態がいつまで続くかですが、自分では寿命は決められません。仮に女性の平均寿命の86歳までとするならば、65才で退職し公的年金を受給し始めてからの「21年間」が老後資金を切り崩す期間となります。

 

そうなると単純計算で「120万円×21年=2,520万円」。あくまで一般論の概算になりますが、老後資金の不足額は2,000万円では収まらない計算になります

「老後資金問題」は一種の現代病?

こうした老後資金の問題ははなにもここ最近になって起こったわけではありません

 

老後資金自体は、昔から今と変わらず同じように必要とされてきました。退職はどなたにでも訪れるものであり、その後は誰しも老後生活に入るわけですから当たり前のお話です。

 

では、なぜ昨今ここまで老後資金が社会問題としてクローズアップされるのでしょうか?

 

要因はいくつかありますが、その中でも大きなものは「退職金制度の変容」「公的年金の減少」の2点だと思います。

 

例えば団塊の世代であればほとんどの企業に「退職金制度」があり、従業員も「終身雇用」が原則でした。本人の意思に関係なく勝手に「退職金」という名の老後資金が形成され、公的年金も現在よりもらえる金額が多かったので、ほとんどの方が特別な「老後資金対策」をしなくてもなんとかなっていたのです。

 

しかし、現在は状況が違います。退職金制度がない企業も珍しくなく、公的年金もどうなるか先行き不透明です。ハッピーリタイアを迎えたいのであれば、会社や国に頼るのではなく自分の手でなんとかするしかありません

 

その意味で、「自分年金」の必要性が高まっているのは確かなことだと言えそうです。


老後資金で不動産投資を始めたら?

では、その「自分年金」に不動産投資はなり得るのでしょうか?

 

この答えは「Yes」でもあり「No」でもあります。

 

当たり前のことですが、全てはやり方次第。ただ、投資用マンションデベロッパーが謳うほど簡単なものではないことだけは確かでしょう。

 

例えば、上記の老後資金の計算で毎月10万円ずつ貯金を切り崩す例を挙げました。このケースを不動産投資で解決したいのであれば、毎月10万円のキャッシュフローが賃貸経営で捻出できれば老後資金の不足分をまかなえることになります。

 

これは「毎月の家賃収入が10万円」という意味では決してありません実際の家賃収入から毎月引かれる経費もあれば、不動産所得には税金もかかります。そもそも常に満室なんていうことはあり得ませんから、年間の家賃収入としては最低でも1.5倍の180万円程度を見込んでおく必要があるでしょう。

 

年間180万円の家賃収入を得るためには、物件の表面利回りを6%と仮定すると、3,000万円程度の物件を所有していなくてはならないことになります(180万円 ÷ 6%)。


老後資金をリスク(=ブレ幅)に晒すのは要注意!

少し乱暴な考えかも知れませんが、例えばコツコツと貯めてきた老後資金3,000万円を使って収益物件を購入するというやり方も、こうして数字上だけで考えれば選択肢の一つになり得るわけです。現金として手元にあった3,000万円が収益不動産に姿を変え、毎月の生活費を捻出してくれるという理屈です。

 

しかし実際にはそんなことをする人はいません。既に3,000万円の老後資金があればわざわざリスク(=ブレ幅)をおかす必要がないからです。いくらまとまったお金が手元にあったとしても、それが「老後資金」という使途がはっきりしているものであればセーフティーファーストで考えるべきです。

 

では新たに大部分を金融機関から借り入れて、収益物件を購入した場合はどうなるのでしょうか?

 

この場合は毎月のローン負担がありますから、目先のキャッシュフローには期待できません。よほどの好条件がそろわない限り、十分な老後資金を生み出すのは至難の技と言えます。

 

そう考えると、リタイアするような年齢になってから慌てて不動産投資を始めても良いことはなさそうです。いずれ必要となる「老後資金」のために早い段階から準備をしておく、理想を言えば「老後生活に入る前にローンが終わっている形」がベストでしょう。


どんな不動産投資が「自分年金」になり得るのか?

本当にデベロッパーの言う通り新築ワンルームマンション投資を「自分年金」にするためには、次の二つが絶対条件となります。

  • 「老後までにローンを払い終える」
  • 「ローンを払い終えた後に物件の資産価値が残っている」

前者に関して重要なのは、なるべく早い時期に始めること。そして、繰り上げ返済を継続的に行うことです。物件価格の高止まりが続いている現状では、家賃収入だけでローン返済および諸経費を賄うことはほぼ不可能ですから、間違っても「家賃収入は不労所得」などとのんびり構えていてはいけません。

 

さらにハードルが高いのが後者です。買った時は新築だったとしても、30年ローンを払い終えた時には築30年の立派な中古物件。マンションが資産価値を保つためには建物のメンテナンスが不可欠ですが、一棟全部が収益用の、言い換えれば“所有者が誰も住んでいない”マンションの管理責任の所在については、大いに疑問が残るところです。

 

新築より利回りが高いからと言って中古マンションを購入した場合では、資産価値の維持はよりシビアになってくるでしょう。言うならば、「耐久性」の変わりに「利回り」を選択したという形です。

 

あるいは、一棟アパート等の土地が含まれる物件であれば、資産価値の維持という面ではアドバンテージが見込めるかもしれません。土地はよほどの事情がない限り経年劣化することはないからです。

 

ただし、そのパターンでは物件の規模は大きくなりますので、「老後までにローンを無事に払い終える」ことに対する難易度は上がります。その人の属性によっては、そもそも金融機関からお金を借りられないケースも多いでしょう。


老後資金は「早めの準備」が肝心!

最近ではFPとしてご相談を受ける時、どうしても「老後資金」に話が及ぶケースが多くなっています。

 

その度に感じることですが、老後資金にとってなにより大事なのはやはり「早めの準備」です。

 

これはなにも不動産投資を使った方法に限ったことではありません。どんなやり方であれ、短期間で大きな老後資金を用意するのは簡単なことでないからです。準備期間が短くなればなるほど、老後資金への難易度は上がると言えるでしょう。

 

ただ、一口に「早めの準備」と言っても、その人や家庭の状況によりアプローチの方法は様々です。

 

不動産投資もその選択肢の一つになるかもしれませんが、ここまでご説明してきたようにそのハードルは決して低くはありません。始めから視野を狭めずに自分の考えやライフプランと照らし合わせ、「自分にとってどんな方法が一番合っているのか」はよく検討することが重要です。


(2023/06/28改訂 文責:佐野純一)

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