「サブリース(家賃保証)って本当に大丈夫でしょうか?」
不動産投資のご相談を受けていると、かなりの頻度でこんな質問を受けます。
各業者がセールスポイントとして声高に謳うサブリースですが、施主側からは懐疑的な声が多く聞かれます。サブリースの説明を聞いて興味がでてくる反面、どこか腑に落ちない、あるいは信用しきれないものを感じているのかもしれません。
インターネットで「サブリース デメリット」とか「サブリース 失敗」と検索してみると、様々な記事がヒットします。
面白いのは「サブリースを解約したら不動産投資に失敗した」という記事が散見されること。サブリースに否定的な私としては興味深く読ませていただきましたが、案の定そのほとんどがサブリースを行っている業者の記事でした(笑)。
このような記事が存在するということは、裏を返せば業者としてはそれだけサブリース契約が欲しいということでもあります。中にはまるで自分たちが身銭を切って大家の家賃収入を守るような印象を与える業者もいますが、自分たちにとって旨みがあるものでなければこうも躍起になるはずがありません。
サブリース業者にとって“儲かるもの”が、大家にとっても本当に“良いもの”でしょうか。
自ら賃貸経営を行う「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)が、改めてサブリース(家賃保証)の仕組みを解説します。
先ほども申し上げましたが、私はサブリース(家賃保証)には否定的です。
その理由は簡単です。単純に言えば、「メリットよりもデメリットのほうが大きい」と考えているからです。このことは両者を比較してみるとよく分かります。
まず、サブリースのメリットを考えてみましょう。一般的には下記のようなことが言われています。
大家に好まれるのはやはり@とAでしょう。何よりも「安心感」という点で、サブリースを選ぶ方が多いようです。
Bに関してはきちんとした管理会社を選べばサブリースでなくても同じ効果は得られますし、Cにいたってはこの程度の手間が省ける代償としてはコストが高すぎます。
それでは、@の「安定的な家賃収入」とAの「ローンの全期間家賃保証」の正体を改めて考えてみることにしましょう。
@の「安定的な家賃収入」ですが、一般的にサブリースの場合、手数料として家賃の10%をサブリース業者が徴収します。
これは「どんなに空室が多くても家賃の90%は入ってくる」ということを意味していますが、逆に考えれば「どんなに満室が続いても家賃の90%しか入ってこない」ということでもあります。言い方を変えれば、一年間を通して「始めから空室率10%が確定している」ということになるでしょう。
大家業を営もうとしている人間が、常時空室率10%という状態を容認して良いものでしょうか。私は違うと思います。
一時的なものならともかく、常に空室率が10%というのはその物件にとって健全な状況とは言えません。
空室のクリーニングに問題があるのか、内見方法に工夫が足りないのか、あるいはそもそもの家賃設定に無理があるのか。
いずれにしろ、もし空室率が10%に上るのであれば、そこには必ず何かしらの改善点はあるはずですし、大家としてやるべきことをやっていれば空室率はもっと抑えられるはずです。
そう考えると、サブリースの「安定的な家賃収入」は、裏を返せば「安定的な空室率」でもあるという表現もできてしまうのです。
Aの「ローンの全期間家賃保証」にも考えるべき点はあります。
最近はアパートローンの長さに合わせて長期間のサブリース契約を結ぶ業者が多くなっていますが、彼らが保証するのはあくまで「家賃の90%」です。
誤解の多い点ですが、この家賃は始めの設定がずっと続くわけではなく、数年毎に金額を見直す契約になっています。その意味では、家賃はあくまでも「時価」に過ぎません。
では、その家賃の「時価」は誰が決めるのか。建前上は大家と業者双方の協議となっていますが、実際に大家に決定権はありません。実務として募集を行うサブリース業者がイニシアチブをとります。
そうなると、彼らがどういった家賃設定をするかは容易に想像がつくでしょう。そうです、サブリース業者は「絶対に入居者が決まる家賃設定」をします。
なぜなら、彼らが保証するのは「家賃の90%」であり、決まった金額ではありません。例え家賃がそのエリアの相場より安かったとしても、彼らには必ずその10%が入ってくるからです。
一方で空室になってしまえば家賃の90%を業者が負担しなくてはなりません。そのような収益構造では「できるだけ高い家賃で募集をかける」という発想が生まれるはずもなく、むしろ家賃をどんどん下げてでも空室率を下げようとします。結果として、その物件の家賃下落は加速的に進むことになり、大家の手取りはどんどん減っていくのです。
間違えてはいけないのは、「ローンの全期間家賃保証」は安全なローン返済を約束するものではないということです。サブリースの賃料が下がっていってしまえば、家賃保証されていたとしても家賃収入がローン返済額を下回る危険性があることをしっかり認識しなくてはなりません。
こう考えてみれば、サブリースが売りにしている「安心感」がいかに曖昧なものかがよく分かります。
サブリースで特に気をつけなければならないのが、業者に他の収益があるケースです。
具体的には、建設会社が建設費で収益をあげる場合や、マンションデベロッパーが新築マンション販売で収益をあげる場合がそれにあたります。
実はこのようなケースでは、元々の家賃設定が相場より高くなっていることがあります。先ほどの理屈で言えば、家賃設定を高くするのはサブリース業者にとっては自殺行為。空室率が増え自己負担が重くなってしまうのに、それでも彼らが家賃設定を高くするのはなぜか?
それは「彼らの商品であるアパートやマンションを高く売りたいから」に他なりません。
家賃設定が高ければ、物件の価格が少々高くても収支計画上は高い利回りを確保できるように見えます。そのような収支計画を提示することで、消費者にそれがいかに良い物件であるかをアピールするのです。
確かに空室率が上がればサブリース業者の負担にはなります。ただその状態はいつまでも続くものではありません。数年後の家賃見直し時にに空室率を理由にオーナーとの契約を変更してしまえば、そこで業者の負担は終了です。
業者としてはスタート時点で建設費や売却費で十分な利益が確保できていますので、わずか数年の家賃負担はそこで回収できてしまいます。端的に言ってしまえば、数年の家賃負担を最初から物件価格に転嫁させているわけです。
このようなケースでは、大家の未来は悲惨です。安心していられるのは最初の数年間だけ。その後はサブリース契約自体が続いたとしても家賃は大幅に下げられてしまいます。
元々見せかけの収支計画ですから、一度そうなってしまったら改善できるはずもありません。時間の経過と共にズルズルと家賃を下げられて、大家はローンで身動きがとれなくなってしまいます。
このように建設業者やマンションデベロッパーから見ると「サブリース契約」は実に都合のよい商品です。声高にサブリースを提案するのが実際に大家業を営んでいる人ではなく彼らだというのも、実に納得できるお話です。
ここまででも様々なデメリットが出てきましたが、「サブリース最大のデメリット」は実は他にあります。
私が考えるサブリース最大のデメリットとは、「大家に賃貸経営のノウハウが貯まらない」ということです。
なにもかも任せっぱなしになりがちなサブリース。実際に大家がすることはあまりありません。その結果、何年賃貸業を営もうとその大家に「賃貸経営のノウハウ」が貯まらないという事態を招いてしまうのです。
家賃収入は世の中で言われてるような「不労所得」では決してありません。他の商売と同じように経験値を積み、それを生かしていくことで初めて長期間に渡る安定的な家賃収入を得ることができます。
特に賃貸経営は原則として「右肩下がりの商売」ですから、始めの良い状態の時に経営のノウハウを貯めておかないと、後々厳しくなった時にどう対処すればいいのか分からなくなってしまいます。
「大家さんになにもしなくて大丈夫です。全部我々にお任せください!」というサブリース業者の言葉は一見とても親切に思えますが、実は「経験」という何よりも得難い財産を大家から奪ってしまう戦略でもあるのです。
そうやって大家にノウハウを貯めさせなければ、次の家賃改訂時に業者が無理を言って家賃を下げたとしても、大家はそれに対抗する手段を持ちません。逆に「なにもわからないからサブリース契約を解除されたら困る」という心理が働き、業者の条件をそのまま受け入れざるを得なくなってしまうのです。
ただでさえ、賃借人として「借家法」で守られているサブリース業者。物件の所有者であるはずの大家が完全に主導権を奪われ、彼らに利益を搾取されるだけの存在になる危険性は高いと言えるでしょう。
以上、サブリースのデメリットを6つ考えてみました。まとめると次のようになります。
結論として、サブリースは「絶対に業者が損をしないシステム」と言えます。裏を返せば、その分だけ「大家の収入が減るシステム」だということです。
冒頭で書いたように、サブリースを行う業者は「サブリースを解除したから失敗した」という記事を書いていますが、実に本末転倒な主張です。サブリースは大家の収入を減らしこそすれ、増やすことは決してないのですから。
もし、アパート建設や収益物件の購入を検討している中で、「どうしてもサブリースでないと不安だ」という方がいたら、逆にこう考えてください。
「サブリースでなければ成立しない物件であれば、そもそもその物件の収支計画は成り立っていない」と。
サブリースの仕組みを冷静に考えれば、きっとこの結論にたどり着けるはずです。