「ライフプラン」は自営業者には意味がない?

「ライフプラン」はファイナンシャルプランナー(FP)が相談業務を行うにあたり、その基礎となるものです。

 

“人生の予算書”とも言えるライフプランは、長期間に渡るお金の流れを包括的に考えることで、その人が進もうとしている道に光を差し込んでくれる存在とも言えるでしょう。

 

そんな大事なライフプランですが、中には「ライフプランはサラリーマンにこそ有効」と主張する人がいます。

 

逆に言えば、「ライフプランは自営業にはあまり有効ではない」ということですが、なぜそんな考え方が存在するのでしょうか。

 

個人事業主やフリーランスの方にとって、本当にライフプランは意味のないものなのでしょうか。「“お金の相談”の専門家」FPと一緒に考えてみましょう。


サラリーマンは「収入の予測」が比較的容易

そもそも、なぜ「ライフプランはサラリーマン向き」と言われるのでしょうか。

 

その大きな原因は、会社員がもらう「お給料」にあると考えられます。

 

現代社会では企業によって雇用形態も多種多様になってきましたが、給料というものは「毎月もらう金額にあまり大きな変化がない」というのが一般的です。

 

基本給に残業手当などの各種手当が上乗せされて、いわゆる「給与」が形成されるわけですが、繁忙期等の変化で多少の増減はあるにしても、一年を通して考えれば平均化されてきます。業種にもよりますが、前年に比べて10%以上も上がったり下がったりするようなケースは少ないでしょう。

 

そのため、給与は「未来の金額も予想しやすい」という特性があります。特にトラディショナルな日本企業であれば、年齢に応じて横並びで変化していくのがこの世の常。自分の10年先輩の給料が分かれば、10年後の自分の給料も推して知るべし…といった感じです。

 

つまり、会社員で給与をもらっている人はこれからの収入についてある程度の計画を立てることができると言えます。

 

「ライフプラン」とは結局のところ“人生における収入と支出の積み重ね”ですから、一方の要素である「収入」の予測が立てば確度はぐっと増すと考えて間違いありません。


個人事業主の収入をどう考えるか

それに対し、個人事業主の収入は不規則です。

 

どんな職種であれ、仕事の継続性は会社員に比べて遥かに短いですから、今年の収入が去年に近い数字になる保証はどこにもありません。また、来年の収入もどうなるか分からないというのが正直なところです。

 

ですから自営業の人がライフプランを作る時には、収入はあくまでも“見込み”で考えるしかありません。残念ながら、会社員のケースと比較すると「精度として落ちる」のは否定できないのです。

 

口の悪い人ならそのことを指して「希望的観測でしかないなら、ライフプランなんて作る意味ないよ!」と言うかもしれませんし、このことが「ライフプランはあくまでサラリーマン向け」であり、自営業者は出たとこ勝負でやるしかないという考えに繋がっているのでしょう。

 

しかし私は、先の見通しが立ちづらい個人事業主こそライフプランを作るべきだと考えています。

 

なぜなら、ライフプランとは「未来を予想し、その内容の当たり外れを競うもの」では決してないからです。


ライフプランは「予言書」じゃない!

FPとしてご相談を受ける時、ライフプランのご説明をする機会は多くあります。

 

大抵の場合はお客様にその重要性を理解していただいたところで早速作成に取り掛かるのですが、中には自分のライフプランを作ることに消極的な人もいます。

 

こうした人がライフプランの重要性を理解していないかと言えば、必ずしもそうとは限りません。むしろライフプランの力が分かったからこそ、作ることをためらうケースも多いのです。

 

どういうことかと言えば、そうした人は自分にとってあまり楽しくない未来が目の前に突きつけられることに抵抗感があるのです。もっと有り体に言ってしまえば、このまま行けばどんなことになるのかを知ることが怖いのです。

 

人間誰しも厳しい現実と向き合うのはつらいものです。ご相談者の方にそういった感情も、ある意味当たり前のことかもしれません。ですから私はそんな時にこう説明しています。

 

「大丈夫です。ライフプランは決して“予言書”ではありません!」

 

ライプランはあくまでも“シミュレーション”です。端的に言えば、収入の予測から支出の予測を引いた単なる引き算の積み重ねでしかありません。「こういう条件で行けばこういう結果になる」という表に過ぎないのです。


ライフプランを作る本当の意味とは?

「それなら尚更ライフプランなんて意味がないじゃないか」と考えるのは早計です。

 

ライフプランは次の2つのステップを踏んでこそ、その真価を発揮すると私は考えます。

 

一つ目は、「長い人生においてお金の心配をしないですむための条件を探すこと」

 

二つ目は、「その条件が見つかったらそれを守っていくためのベンチマークにすること」です。

 

繰り返しになりますが、ライフプランとは「収入」と「支出」の積み重ねでしかありません。収入と支出の“条件”を入力した“結果”に過ぎないのです。

 

だからこそ逆に考えれば、自分の理想的な“結果”が分かれば、ライフプランは逆算してそこにたどり着くための“条件”を探すカギとなりうるのです。経済的にどのくらいの“結果”が必要かが明確になれば、収入と支出の“条件”も自ずと分かるはずです。

 

また、ライフプランを一度作ったら放ったらかしの人もいますが、それではライフプランの価値は半減してしまいます。

 

理想的な人生を送るための“条件”を設定したライフプランは、言わば「人生の設計図」。常に現状と設計図を照らし合わせ、自分が計画通りに来ているのか、それとも修正が必要なのかを判断していく必要があります

 

現状と設計図を照らし合わせる時、目安となるのが「世帯としての貯蓄額」です。住宅・教育・老後のいわゆる“人生の三大資金”を始めとする支出に耐えるためには、今いくらの貯金があれば良いのか。きちんと設計されたライフプランには、その答えが書いてあります

 

ただ闇雲に貯金をしたり節約をするだけでは、不安感が増すばかりです。せっかくがんばって稼いでもそれでは楽しくありません。「現在の自分にいくらの貯蓄があれば良いか」が分かれば、お金のコントロールはぐっと容易になります


上手にお金をコントロールするために

話を個人事業主に戻しましょう。

 

ライフプランを使ったお金のコントロールを行う場合、サラリーマンであれば出て行くほうのお金「支出」の管理がその主な作業になります。給料については自分ではどうしようもないことが多いからです。

 

一方、フリーランスや個人経営であれば、「支出」はもちろん、「収入」の方もコントロールしなければなりません。“働き方”も自分で管理しなければならないと言っても良いでしょう。

 

この作業は、かなりお金に敏感な人でも至難の技です。ましてや自分のライフプランを作らずに、基準となる数値が分からないのであれば、それこそコントロールの仕様がありません。

 

だからこそ私は声を大にして言いたいのです。

 

「フリーランスの人こそ、ライフプランが必要だ」と。

 

ライフプランを作成しておけば、それをベースにして貯蓄額をコントロールするという選択肢が生まれます。

 

少しシビアなことを言えば、もしシミュレーションの条件としていた「予想した収入」を得ることができなければ、「優先順位の低い支出」から削っていけば済むお話です。

 

反対に予定以上の収入があったのならば、それ以後の仕事を少しセーブすることも可能ですし、なんなら思い切ってパァーッと使っても大丈夫でしょう(笑)。

 

そうした判断もその人のライフプランなしではできません。うっかり優先順位の低い支出を見逃してしまって後で困ったことになったり、逆にせっかく稼いだお金を気持ち良く使えないという事態に陥るもしれないのです


フリーランスこそライフプランが重要

お金にまつわる「一般論」は世の中に掃いて捨てるほどありますが、FPはあくまでその人という“個人”をベースにライフプランを考えます

 

当たり前の話ですが、この世に同じ人は二人いませんし、同じ家庭も二つとして存在しないからです。

 

さらに考えれば、比較できる会社の先輩や同僚が存在しない分、こうした個人差はサラリーマンよりフリーランスの方が大きいと言えるでしょう。

 

その意味では、確度としてはやや落ちるものの、「人生の設計書」としてライフプランをより必要としているのは、会社員よりも自営業の方なのかもしれません


(2016/12/28 文責:佐野純一)

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