4人家族の生活費は最低「月48万円」?

「子どもが2人いる30代の世帯が、子育てしながら普通に暮らすためには最低月48万円が必要」

 

2019年12月、京都地方労働組合総評議会(京都総評)が「最低生計費試算調査」の中でこのように発表すると、すぐに世の中には様々な反響がありました。

 

「贅沢だ!」という声が上がる一方で「少なすぎる」という意見もあり、マスコミでもこの話題は盛んに取り上げられました。

 

ただ、“お金の相談”を生業とするファイナンシャルプランナー(FP)からすると、その数字の妥当性云々の前に、この騒動そのものに大きな違和感を覚えたのも事実。これは「問題の論点がズレているように感じた」と言い直してもいいかもしれません。

 

そこで今回のコラムでは、この騒動が提議した現在の日本社会における「お金の考え方に対する問題点」をFPの視点から解説したいと思います。


「48万円」は財布から出ていくお金じゃない!

まずは、最低必要とされる「48万円」が何を示しているかを確認してみましょう。

 

重要なのが、この48万円は「財布から出ていくお金ではない」という点です。

 

京都総評の資料を見ると48万円の内「税金・社会保険料」が約7万円、「予備費」が約4万円となっています。

 

「税金・社会保険料」とは、具体的には所得税・住民税・年金保険料・健康保険料のことを指し、サラリーマンであれば、給与から源泉徴収(いわゆる「天引き」)されるお金です。天引きされるわけですから、そもそも自分の財布に入ってくることなく、当然出ていくこともありません。

 

「予備費」は定義が少し難しいですが、この場合は「年間単位でかかるお金」と解釈するのが妥当でしょう。家族旅行や家電の買い替えなど、「毎月の出費」には含みにくいものの、一年で数度か数年に一度発生する出費の総称です。

 

この二つの項目を抜けば、毎月財布から出ていくお金の総額は約37万円。48万円とはだいぶ印象が変わってくるはずです。

 

テレビなどでインタビューを受けた人たちを見ていると、この点を知らずに騒いでいる人が多いことに驚かされました。もちろんインタビューする側の問題も大きいとは思いますが、自分の給与から天引きされているお金をそもそも認識していない人はかなり多いようです。

 

このことは、日本社会の金融リテラシーの低さを端的に物語っているように感じます。

 

毎月自分の給料から「何の目的で」「いくら引かれているのか」に注意を払っている人が少なすぎるのです。これからは学校教育も含めた、お金に対する日本社会全体の意識改革が必要だと言えるでしょう。


「月48万円」を世帯年収に直すと…

毎月財布から出ていく「37万円」の内訳については、細かい個々の支出を議論する意味はありません。

 

「何にいくら使うか」はそのご家庭の判断に任せればよい事柄で、私が“お金の相談”を受ける時でも全体の支出額についての検討はするものの、個別の支出について議論するのは時間の無駄だと考えています。

 

ただ、あくまでも個人的な意見としてこの37万円の妥当性について問われたら、「全体的に抑えめ」とお答えするでしょう。

 

特に住宅費(家賃)については東京の相場と比べてかなり低く、東京では非現実的な数字と言ってもいいかもしれません。その点も踏まえて、京都総評がこの金額を「最低」と銘打ったのには納得感があります。

 

それでも、人によっては「月48万円は贅沢だ」と感じる場合もあるでしょう。そんな人は「世帯年収」という視点で考えてみると良いと思います。

 

月額48万円であれば、年収額にして600万円弱です。あくまでも「手取り」ではなく「額面」のお話ですから、例えば年収600万円の夫と専業主婦の妻、あるいはそれぞれ年収300万円の夫婦であれば、条件はクリアできます。

 

これまで数多くのライフプランを作ってきた私としても思うことですが、世帯年収600万円のご家庭で子ども二人を育てるのに「余裕がある」と感じるケースはかなり少ないのではないでしょうか。「贅沢だ」という声を上げた人たちの中に、どのくらい現役の子育て世代や子育て経験者がいるかについては疑問が残るところです。


ライフステージによってお金の使い方は変わってくる

この「家族4人の生活費は最低48万円」にまつわる騒動は、我々に二つの大事なことを示してくれたように思えます。

 

一つ目は、「ライフステージによってその人のお金の使い方が変わってくる」ということ。

 

特に独身の人には「最低48万円」という数字は受け入れがたいものかもしれませんが、単純に生活する人数が単身者の4倍ということを考えれば、それほど不思議な数字ではないはずです。

 

さらに言えば、子どもが小さいうちは女性が働き方をセーブしていることも多いので、収入も大きく減る可能性が否定できません。自分で自分の生活費を、あるいは二人で夫婦の生活費を稼いでいた状況から、お金の収支は大きく様変わりしてくるのです。

 

結婚を機にライフプランを作りたいというご相談の時には、このあたりの説明を丹念にすることにしています。どんな人であれ、実際に家庭を持ち、子育てを始める前ではこうした感覚を持つことが難しいからです。

 

それでも、早い時期に将来的な支出を予測できていれば、そこに向けてライフプランを修正することは可能です。自分の現状と違うからといって「最低48万円」という数字をただ頭ごなしに否定するのではなく、将来の目安の一つとして捉えるのが正しい姿勢だと言えるでしょう。


お金の問題に「僻み根性」も「マウンティング」も不要!

もう一つは、「他の家庭との比較に意味はない」ということです。ましてや、他者への批判などなんの解決にもなりません。

 

この問題がクローズアップされた頃、世の中には様々な意見が飛び交いました。その多くは自分と比較して「贅沢だ」と僻んだり、反対に「それだけしか使えないの?」と悦に入るものでした。

 

「“お金の相談”の専門家」でるFPに言わせれば、お金の使い方に普遍的な「正解」はありません

 

他人と比べて劣等感を覚える必要はありませんし、安心感を覚えたり優越感に浸るのも無意味です。「お金の使い方」に関しては、僻み根性もマウンティングも愚の骨頂と言えます。

 

本当に大事なのは、自分のお金に対して問題意識を持つこと

 

そうすれば、全ての人に共通する正解はなくても、「あなただけの正解」はきっと見えてくるはずです。


お金の話ははしたない? それって目を逸らしているだけじゃ…

日本の社会においては未だに「お金のことを話すのははしたない」という風潮があります。

 

私も別に大声で話す必要はないと思いますが、「話さないこと」と「問題意識を持たないこと」は全くの別物です。

 

実際には「お金のことを話さない」という美徳の影に隠れて、「お金の問題から目を逸らしている」というケースが多いように感じます。

 

繰り返しになりますが、お金の問題に普遍的な正解などありません。しかし、あなたが自分のお金と早く向き合えば、それだけ問題に対して打てる対策も多くなってくるのは揺るぎない事実です。

 

他人の財布事情に一喜一憂するのではなく、ましてや自分との違いを批判するのでもなく、あなたも「自分だけの“お金の正解”」を探してみてはいかがでしょうか。


(2020/08/19 文責:佐野純一)

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