「分散が大事」と言われる資産運用に於いて、誰でも簡単に時間的な分散が実現できる「ドルコスト平均法」。投資に対するノウハウも労力も必要としないこのメソッドは、「ブレ幅」という意味のリスクを軽減するため、特に資産運用初心者にオススメできる方法です。
しかしながら、どんな方法にもメリットとデメリットがあるのがこの世の常。ドルコスト平均法もその例外ではありません。
では、ドルコスト平均法にはどんな弱点があり、そしてどのような人には向いていないのでしょうか。
今回のコラムでは、「“お金の相談”の専門」ファイナンシャルプランナー(FP)が“ドルコスト平均法に不向きな人”を解説します。
世の中には多種多様なFP業務が存在しますが、「保険や証券などの金融商品を一切販売しない」というコンサルティングの性質もあってか、私のところには投資未経験の方がご相談にいらっしゃるケースが多く見られます。
その中でも「既に多くの現金資産があるにも関わらず、これまで一度も投資をしたことがない」という方は資産運用そのものに対する不安や不信感が大きく、当然証券に対する知識も乏しい場合がほとんどです。
こうした案件では「得をする」ことよりも「損をしない」ことに重きを置かれることが多く、自動で時間の分散が図れるドルコスト平均法との相性は“基本的には”良いと考えられます。
ただ、実はこのような「既に手元に運用資金がある」というケースこそ、ドルコスト平均法の使い方に注意が必要となるのです。それは、「ドルコスト平均法を用いることでその人の運用効率が下がってしまう可能性があるから」です。
具体的な計算例を見ながら考えてみましょう。
例えば、3,000万円を年利3%で10年間運用するとします。
ドルコスト平均法を用いて、毎年300万円ずつ10年間運用した場合、最終的に資産は約3,439万円となります。
一方、手元にある3,000万を初年度から全額掛けて年利3%で運用できれば、10年後には約3,914万円にまで成長します。
両者の差は475万円程度。初めから全額掛けた方が“利息が利息を呼ぶ”複利効果が大きくなるため、この違いが生まれるのです。
もちろん、証券等の投資に於いて「10年間ずっと同じ利回りが続く」というのは現実的ではありません。だからこそドルコスト平均法という考え方が存在するわけですが、資産運用の世界で「収益性」と「安定性」はトレードオフの関係にありますから、どちらの方法を採用するかはその人の判断によって変わってくるでしょう。
あるいは、“いくらの資金”を“何年かけて”“どのくらい増やすか”という「投資の目的」によっても、どちらの選択肢を取るべきかは変わるはずです。
もし、あなたが毎月の収入の中からNISAなどで少しずつ積立投資を行っているのであれば、それは一つの「完成されたドルコスト平均法の形」と言えます。中にはドルコスト平均法という言葉を知らずに毎月の積立投資を行っている人もいるかも知れませんが、結果としてそれは最もそのメソッドの効果が発揮されている方法と考えられるでしょう。
反対に、既に運用資金として手元に多くの現預金があり、なおかつ「リスク(ブレ幅)を負ってでも利益を求めたい」という考え方の人であれば、ドルコスト平均法はその人の足枷となる可能性があります。先程の計算例で見たように、複利効果をみすみす手放すことになるからです。
少し余談になりますが、実際に賃貸経営を行っている“現役大家FP”として一言加えるのであれば、不動産投資はある意味ドルコスト平均法の真逆をいく資産運用と言えます。不動産投資の場合は物件購入時に一発勝負で投下する運用資金が決まってしまうわけで、そもそも時間的分散という概念が存在しません。
一般的にはローリスクと言われる(あるいはそのように業者が宣伝している)不動産投資ですが、「時間的分散」という観点ではその評価には大いに疑問が残ります。
誤解のないように申し上げますが、私はなにも「手持ち資金がある人は一括で投資するべき」と主張しているわけではありません。そんなことをしても手数料商売の証券会社を喜ばせるだけでしょう。
ただ、一口にドルコスト平均法と言っても「どれくらいの資金を何年に分けて投資していくか」によって結果は大きく変わってきます。先程の計算例で言えば、3,000万円を5年かけて600万ずつ投資し、その後5年間同じ利回りで運用すれば、10年後には約3700万円となります。
これは、10年かけて追加投資するよりは収益性が高く、最初に一括で掛けるよりは安定性の高いやり方と言えますから、自分が「投資に回せる余剰資金」と「運用する期間」を考慮して、あなたなりのドルコスト平均法の活用を検討すると良いでしょう。
資産運用で大事なのは、表面的な方法論に流されるのではなく、ゴールをしっかりとイメージした「投資の目的」を設定すること。
どんな方法にもメリットとデメリットがありますから、巷に流れる情報を安易に鵜呑みにせずに“自分にとっての正解”をよく考えることが重要です。