「相続した土地をどうすればいいんだろう…。」
自ら賃貸経営を営む「大家」であり、同時に「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)でもある私のところには、相続した土地やアパートに関するご相談も多く寄せられます。
そんなご相談者の方に「どうして私のところにいらしたのですか?」と伺うと、「誰に相談すればいいか分からなくてここに来ました」とお答えになる方も少なくありません。
世の中には「不動産の専門家」と呼ばれる(あるいは自称する-笑)人はたくさんいますが、もしあなたが相続した土地や収益物件の対処に困った時は、どんな専門家に相談すれば良いのでしょうか?
もしかしたら、あなたが訪れる「専門家」は、あなたが想像している「専門家」とはちょっと違うかもしれません。
今回のコラムでは、それぞれ「専門家」と言われる人に相談に行ったらどうなるかを具体的な例で考えてみたいと思います。私のところにご相談に来た方が「始めからここに来れば良かった〜!」とおっしゃるにはそれなりの理由があります。
土地や収益物件を相続した時、相談先として思い浮かぶのは一般的に次の4つでしょう。
今回それぞれの「専門家」のところに相談に行く人は、Aさんとします。
Aさんは親御さんが亡くなって実家の建物と土地を相続しました。Aさん自身はすでに自宅をお持ちで、相続した実家が古いこともあり、土地ごとの売却を考えています。
一方で、実家は都内の私鉄駅から徒歩10分程度のところにあり、小さなアパートなら建てることができそうです。売った方がいいのか、それともアパートを建てて土地活用したほうがいいのか、悩ましいところです。
困ったAさんは「不動産の専門家」のところに相談にいくことにしました。
まず始めにAさんは近所の不動産業者に相談に行きました。
不動産業者の話では、今はアパートも飽和状態。空室率は上がる一方でとても賃貸経営の採算はとれないとのこと。使わない土地であれば、売ってしまって現金に変えたほうが良いという話でした。
Aさんは不動産業者の話に「なるほど」と思う一方で、なんとなく引っかかりを感じます。
不動産業者は物件を売ったり買ったりして、その仲介料をもらうのが商売です。Aさんがこのまま土地を持ち続けたりアパートを建てたところで、彼らの利益にはなりません。
そんな不動産業者から、土地活用の提案が出てくるでしょうか。「売った方がいい」というのはAさんのためではなく、不動産業者が自分たちの儲けのために言っている意見のような気もするのです。
次にAさんは、営業にきていた建設会社の話を聞いてみることにしました。テレビでCMも流れている大手メーカーなので、Aさんも名前を知っていてなんとなく安心感があったのです。
ところが、担当の営業マンからは不動産業者とまったく反対のことを言われました。
「せっかく持っている土地を手放すなんてもったいない! 我が社のサブリースを利用すれば空室リスクなしで安定した賃貸経営ができますよ」というお話です。
長期間に渡って家賃を保証してくれるという「サブリース」に魅力を感じながらも、Aさんはやはりここでも違和感を覚えてしまいます。
建設会社は建物を建てるのが商売。アパートを建てないことには話になりませんから、「土地を売却する」という話にならないのはある意味当然です。
また、いろいろ調べてみると、「家賃保証」を餌に地主にアパートを建てさせること“だけ”を目的とするようなヒドい会社もあるようです。
Aさんの資産状況ではアパート建設のためにローンを組まなくてはいけませんから、借金をして収益性のないアパートが建てるようではまさに本末転倒。建設会社の提案もAさんにはどうもしっくりきません。
不動産屋と建設会社から真逆のことを聞かされて混乱したAさんは、相続の手続きをお願いしている税理士のところに行くことにしました。税理士であれば客観的な意見を言ってもらえそうだと思ったからです。
税理士の提案は「土地を売りましょう」というものでした。その理由を聞いてみると、今回の相続で納めなければいけない相続税がかなりの額になるため、Aさんの親御さんが遺してくれた現金だけでは納税資金がまかなえないからとのことでした。
税理士には話していませんでしたが、今回の相続財産以外にAさんは自分の財産としてある程度の現金があります。それを納税資金に回せば実家を手放さなくても相続税の問題はクリアできそうです。
また、相続税の資金を用意するために慌てて土地を売ろうとして足元を見られる、いわゆる「買い叩き」にあったという話も耳にしたことがあります。税理士の提案する「納税資金のために売る」というのはやや短絡的な発想にも思えます。
最後にAさんは、藁をもすがる思いで銀行に足を運びました。相続した実家のことは銀行の業務とは直結しないかもしれませんが、それでも銀行にはお金に詳しい人がいそうなイメージがあったからです。
ところが、ある銀行では「売った方がいい」と言われ、別の銀行では「アパートを建てた方がいい」と言われました。
そして両方の銀行とも、同じセリフを付け加えるのです。「よかったら業者を紹介しますよ」と。
Aさんが考えた通り、この種の相談は銀行の稼ぎどころである融資事業には直結しません。銀行としては相談されてもビジネスとならないというのが正直なところでしょう。
しかし、そこで諦めないのが銀行のすごいところ。それぞれの銀行はつながりのある業者に紹介することで、少しでも自分たちの利益を稼ぎ出そうとします。
相続した実家を売ったほうがいいのか、それとも活用したほうがいいのか。巡り巡って銀行まできたAさんは、結局のところ、ふりだしに戻ってしまいました。
途方にくれたAさんは、友人の勧めでFPのところに相談にやってきました。
「FP」とは最近テレビなどでもよく耳にするようになった肩書きですが、実際になにをする商売なのかはAさんにもよく分かりません。漠然と「お金に関することを相談する人」というイメージがあるだけです。
ともかく、Aさんはこれまでの経緯をFPを話しました。そして、最後にこう尋ねたのです。
「結局のところ、この土地をどうすればいいんでしょうか?」
Aさんの目の前に座ったFPから、驚くような返事が届きます。
「Aさん、あなたはこの土地をどうしたいのですか?」
そう聞かれてAさんは戸惑いました。これまでの専門家からは「こうしたほうがいい」という意見を聞くばかりで、改めて自分が相続した実家をどうしたいかを考える時間が少なかったからです。
FPは続けます。
「ご実家の土地を手放したくないのであれば活用してもいいですし、リスクを負いたくなければ手放してもいい。相続税の納税資金だって、土地を残したければ手元のお金を使う選択肢もあるし、もちろんその逆も可能です。大事なのは“Aさんがどうしたいか”です」
「そんなこと初めて訊かれました…。」
我に返ったAさんがやっと思いでそう口にすると、FPはさも当然の顔をしてこう答えました。
「それがFPの仕事ですから」
上の4つの例で見てきたように、商売とはそれぞれの利益で動くものです。誰だってタダ働きは嫌なもの。各専門家の提案は、自ずと自分の利益につながるものとなるでしょう。
それは仕事として至極当然のことで、私のようなFPにとっても同じです。
それではFPの利益が何かと言えば、それは「相談に来た方に雇っていただいてコンサルティングを行うこと」です。お客様に雇っていただいて、お客様にとって一番良い方法を一緒に探すのが、FPのコンサルティングの本分なのです。
ですから「お客様が何を望んでいるか」を聞くのは当然のこと。最も重要な“コンサルティングのスタート地点”と言ってもいいでしょう。
実際にこんな例がありました。
相続で二つの土地を受け継いだお客様がいらっしゃったのですが、結果的には一つの土地を売り、もう一つの土地にアパートを建てることになったのです。
アパートの建設費はフルローンを組んでレバレッジを効かせる選択肢もありましたが、ご本人のお考えを聞いて相談した結果、売却したお金を建設費の一部に投入することで、賃貸経営を安定させる方法をとりました。
それが全ての人にとって一番良い方法であるとは限りませんが、その方の「リスク許容度」を考慮した上で、その方にとっての“最善”を導き出した結果です。
これが不動産業者に相談すれば「両方売りましょう」となったでしょうし、建設会社に相談したら「両方建てましょう」という話になったはずです。これはなにも彼らに悪意があるわけではなく、コンサルティングを仕事としていない彼らの収益構造ではそれしか選択肢を持てないのが現実なのです。
コンサルタントの立場から考えれば、「誰に相談すればいいのか」の答は「あなたが何をしたいのか」であると言っていいでしょう。
「何をしたいか」が決まらないうちに誰かに相談をすれば、自然と話はその相談相手の利益が出る方向に向かっていってしまいます。逆に「何をしたいか」がはっきり決まってしまえば、相談する相手は自ずと決まってくるはずです。
そう考えると、FPが行うコンサルティングとは「“あなたが何をしたいか”を一緒に探す旅」なのかもしれません。
その問題においてあなたが到達すべきゴールを設定し、そこに至るルートを検討する。時にはルートの変更が必要になることもあるでしょう。もしかしたら、ゴール自体を修正することもあるかもしれません。
ただ、それを決めるのは、不動産業者でも建設会社でも税理士でも銀行でもなく、そしてもちろんFPでもありません。全ての考えの元になるのは「あなたが何をしたいか」。この一点につきるはずです。
FPの仕事とは、あなたが「何をしたいか」を決めるお手伝いをすること。あなたが目指すゴールや進むルートを自分自身の考えで決められるだけの判断材料を提供するのが、その本質的な役目なのです。