「二次相続」という言葉をご存知でしょうか。
「二次相続」とはご夫婦のどちらかが亡くなった後で、その配偶者が亡くなった時に起こる相続のことです。
例えば先に夫が亡くなったとして、その時に起こるのが「一次相続」。その後、残された妻が亡くなると「二次相続」が発生するということになります。
「相続」と聞くとなにかと揉めるというイメージをお持ちの方は多いと思いますが、この相続を巡るトラブルは二次相続の時に深刻化すると言われています。
なぜ真のトラブルは「二次相続」で起こるのでしょうか。
今回のコラムでは、「“お金の相談”の専門家」ファイナンシャルプランナー(FP)が、コンサルタントの立場からその理由を解説します。
「二次相続」で揉め事が起きやすい理由、それは大きく分けて二つあります。
一つ目は、言ってみれば“世代の問題”です。
一次相続の時には、当然のことながら片親が存命です。どちらが先に亡くなるかは分かりませんが、一般的には妻が残されることが多いかもしれません。
片親が生きている場合、主導権はその人が持つことが多くなります。もし高齢で子供が先導的な役割を果たしたとしても、やはりその存在は大きく意識されるはずです。
全体の構図としては「親が見守る中で子供たちが遺産分割を話し合う」という形になるのが自然でしょう。
また、一方が亡くなったとしても片親の生活がこれからも続くわけですから、なにかが大きく変わることも少ないと思います。
両親が住んでいた実家にそのまま配偶者が住み続けるでしょう。もらっていた年金も一人分とは言え支給され続けますので、そこから生活費を賄う形になります。
これが、二次相続の時になるとガラリと様相が変わります。
誰も住まなくなった実家をどうするかという問題が浮上するかもしれません。子供の誰かが同居していたのであれば、生活費の出入りにも大きな変化が生じます。
ただ、二次相続である今回は子供たちしか残されていません。このことはつまり、「同世代だけで問題を解決しなくてはならない」ということを意味しています。
一次相続の時のように仲裁者の役目を担う親はもういません。兄弟同士で話し合っても進まない場合もあるでしょう。あるいはその配偶者等の新たな登場人物が出てきて、事態がより複雑化することも考えられます。
その結果、これまで表面化していなかった感情的なもつれがここで姿を現すといったケースも少なくありません。見守る立場の人はいないわけですから、ちょっとしたボタンの掛け違いでまとまる話もまとまらなくなります。
これが二次相続の時に起こる“世代の問題”です。
ただ、二次相続でトラブルが起こる本当の理由は二つ目にあります。
それは一次相続の時に行った“節税対策”です。
いざ相続が発生すると、どうしても関心は節税対策に集中してしまいます。特に事前に十分な準備を行ってこなかった場合は、慌てて分割協議を進めなくてはいけません。
そんな時についやってしまいがちなのが、「遺産の大部分を配偶者に相続させる」という選択です。配偶者に相続される遺産には、税金の大幅な軽減策が設けられているからです。
税法上、配偶者への相続分は「法定相続分、あるいは1億6000万円までのどちらか高い方」までは非課税となっています。
子供がいる場合、配偶者の法廷相続分は1/2ですから、つまり、一次相続時の相続税評価額が3億2000万円以内であれば、半分までは税金を払わずに配偶者に相続させることができます。特別な事情がない限り、日本のご家庭の大半はこの枠の中に収まるでしょう。
そのため、一次相続の際には“ついつい”配偶者の相続分を多くしてしまいがちです。
極端な例では、遺産の全てを配偶者が相続することもあります。そうしてしまえば、評価額が1億6000万円までであれば税金をとられずに済みますし、なにより面倒な分割協議をする必要がありません。
ただ、ちょっと待ってください。
いくら相続税が軽減されるからといって、その選択で本当に良いのでしょうか?
日本ではご夫婦の年齢差はあまり大きくないのが一般的です。男女の平均寿命の差があるとは言え、一次相続から数年以内に二次相続が発生する確率は決して低くないでしょう。
二次相続の場合、当然のことながら今度は配偶者への非課税枠は使えません。子供達にそのまま相続され、それぞれがそれ相応の相続税を負担することになります。
つまり、一次相続時の節税のために配偶者に最大限の相続を行ったとしても、それはわずか数年の時間稼ぎにすぎません。平たく言えば、単なる“問題の先送り”です。
二次相続の時に配偶者の持ち分が多ければ多いほど、揉め事の原因になる傾向があります。子供達の世代だけで話し合いを進めなくてはならない中で、肝心の「分割の大きな方向性」が決まっていないからです。
特に一次相続時の節税対策として、子供間で既に公平性を欠く分割が行われていた場合は、トラブルがより深刻化します。例えば、親と同居している子供が「小規模宅地の特例」を使うために実家を相続していたケースなどは、他の子供から不満が噴出するような事態になるのは想像に難くないでしょう。
そんな兄弟間でのトラブルを防ぐためにも、一次相続の時に、いえ、欲を言えば一次相続が起こる前から、「子供世代に資産をどう残していくか」の大まかな方向性は決めておくべきです。
たとえその方向性が一次相続時に最大の節税策にならなかったとしても問題ありません。将来の“争族”を防ぐためであれば、多少の相続税など決して高くはないはずです。
相続対策として真の意味で重要なのは、
の順番で優先順位をつけて解決策を考えることです。
一次相続時の配偶者非課税枠は金額が大きい分インパクトがありますが、既に見てきたように単なる“時間稼ぎ”であり、“問題の先送り”にすぎません。
これは相続税に限ったお話ではありませんが、こちらがなにかしらの節税対策を講じたとしても、国税庁はそれを後で回収する術を考えています。
目先の損得だけに囚われて将来の遺恨の種を作ってしまうのは、遺産を残す側にとっても残される側にとっても、決して良い解決策とは言えないはずです。
最近、厚労省主導で作成された「人生会議」のポスターが物議を醸し出していましたが、その表現方法はともかく、人の死を過度にタブー視することが良いこととは限りません。
「相続の時に本当に大事なことは何か」
早いタイミングでそのことと向かい合い、事前に準備を進めることが大切です。